中国EVの全世界を見据えた大攻勢がはじまった トヨタ ホンダ 日産… 国内メーカーはどう受けて立つ??【第2回/全4回】

■世界の自動車業界の「再編」それを読んでいたのがカルロス・ゴーン

 この時から、EVに興味を持って調べていくと、「裏の仕掛け人」が浮かび上がってきた。

 それは、2018年11月19日に、東京で電撃的に逮捕されることになるカルロス・ゴーン日産ルノーグループ会長だった。

 ゴーン会長が、胡錦濤政権の幹部たちに、「EVシフト」を強く勧めているというのだ。

 当時、ゴーン会長は、年に何度も訪中していた。そこで訪中しているある時、ゴーン会長が内部向けに行った講演会に入れてもらった。

「中国の社会主義は素晴らしい。政権が安定していて、5年ごとに経済計画を発表するので、ビジネスの計画が立てやすい。

『第12次5カ年計画』(2011〜2015年)の産業政策の目玉は、NEVだ。われわれはこれを商機到来ととらえ、明確に中国の計画に沿ったビジネスを進めていく。

まもなく世界最大の市場となる中国で『自動車革命』が起これば、それは世界の自動車業界を再編する動きになるだろう」

 日産が、2010年に世界初の量産EV『リーフ』を販売したのは、こうした背景があったのだ。

 実際、胡錦濤総書記から習近平総書記にバトンタッチする4カ月前の2012年7月、中国国務院(中央政府)は、「エネルギー節約とNEV産業発展計画」を発表した。

 EV、PHV、FCV(燃料電池車)を合わせたNEVの保有台数を、2020年に500万台にするという気宇壮大な目標を掲げたのだった。

■1日の新車登録台数が5000台を突破。2010年、北京市民は買い漁る

 前回述べたように、中国がガソリン車からEVに方向転換した最大の理由は、いくらガソリン車の性能向上を図っても、日米欧を超えるレベルのエンジンを作れないと結論づけたからである。

 だが当時、北京に住んでいた私の肌感覚では、もうひとつ、切実な大気汚染問題を解決したいという事情もあった。

 2010年のクリスマスイブの日、北京の1日の新車登録台数は、ついに5000台を突破した。猫も杓子も新車を買い求める時代が到来したのだ。

 東京都の昨年の1日平均の登録台数は575台なので、その10倍近いクルマが、北京の街で日々増えていったことになる。

 そのため、街中にクルマが溢れ、大通りはむろん、「胡同」(フートン)と呼ばれる路地裏まで大渋滞をきたした。レストランに予約の電話を入れる前に、近くの駐車場に予約を入れないといけなかった。

 石炭の産地オルドスから北京へ向かう200kmの道のりに、20日間もかかるという世界最悪の渋滞状況だったのだ。

 こうした事態は、世界最悪の大気汚染をもたらした。

 日本の環境省はPM2.5の数値が、35以内を「正常」と見なしているが、北京市環境保護局の計測器はそれの何十倍の「1000」を突破し、計測の針がふり切れてしまった。

 その頃の北京の大気汚染は、いま振り返っても恐ろしい。

 夜寝る時に、寝室の窓を閉め、カーテンを2枚重ねにして、空気清浄機を3台フル稼働させても、翌朝にはPM2.5の襲来に咳き込んで目覚める。

 出勤時の空は灰色に曇り、視界は数十メートルしかない。マスクをしても目、鼻、口、耳などが痛くなり、喉が腫れる。そのうち頭とともに、背骨や膝までズキズキして、歩行困難になってくる。

 中国政府は、こうしたかなりひどい大気汚染を解消する手段としても、EVへの転換を決めたのだ。

■2015年、初めての中国製EV。乗り心地は「還可以」(まあまあ)

 2010年の年末、北京市は全国に先駆けて、「治堵」(ジードゥ=渋滞緩和)政策を始めた。

 毎月の新車登録台数を2万台に制限し、ナンバープレートの末尾で曜日ごとに運転制限をかけるなどの措置を取ったのだ。そしてしばらくして、「『電動汽車』には制限をかけない」として、EVの普及を図っていった。

 私は2012年に日本に帰国した後も、年に何度か北京を訪れていたが、2015年の暮れ、北京首都国際空港までいつも出迎えてくれる友人の運転するクルマが変わっていた。

「6万元(約110万円)で小型の国産『電動汽車』を買ったんだ。これまでのホンダのSUVは、妻が子どもの学校の送り迎えに使っているよ。

1台目は日本かドイツのガソリン車、2台目は国産の『電動汽車』というのが、いまの北京っ子のスタイルだ。

『電動汽車』は政府から補助金は出るし、すぐにナンバープレートが取れて、道路の運転制限もかからない。充電スタンドも増えてきている。機能的にも、街中を走るくらいなら遜色ないよ」

2015年頃から北京を走るクルマが少しずつEVに変わっていったという。これはBYDのe2
2015年頃から北京を走るクルマが少しずつEVに変わっていったという。これはBYDのe2

 私はその時、初めてEVに乗った。ガソリン車と区別するため、ナンバープレートが緑色になっていた。

 たしかに、いつ抽選に当たるかしれないガソリン車のナンバープレート取得を待つより(自動車を買ってもナンバープレートを抽選で取得しないと運転できない)、手っ取り早く中国産EVを買う気持ちは理解できた。

 乗り心地は、トヨタのプリウスに比べたらいまひとつだが、軽快な感じで、中国語で言う「還可以」(ハイクーイー=まあまあ)。

次ページは : ■昨年の中国のNEV(新エネルギー車)販売数は352万台。全体の13%

新車不足で人気沸騰! 欲しい車を中古車でさがす ≫

最新号

S-FR開発プロジェクトが再始動! 土屋圭市さんがトヨタのネオクラを乗りつくす! GWのお得情報満載【ベストカー5月26日号】

S-FR開発プロジェクトが再始動! 土屋圭市さんがトヨタのネオクラを乗りつくす! GWのお得情報満載【ベストカー5月26日号】

不死鳥のごとく蘇る! トヨタS-FR開発計画は再開していた! ドリキンこそレジェンドの土屋圭市さんがトヨタのネオクラシックを一気試乗! GWをより楽しく過ごす情報も満載なベストカー5月26日号、堂々発売中!