■「FR」ヘの拘りが人気を呼ぶ
80系カローラの最大の話題は、ここに至ってカローラとして初めてFWD、エンジン横置きの前輪駆動を採用したことだった。
4ドアのサルーン、5ドアのリフトバックがラインアップされ、1.3L~1.6Lのエンジンが搭載された。トヨタのすごいところというか、それだけに済まさず、しっかり後輪駆動のモデルを残したことが「ハチロク」のヒットに結びつく。量産モデルカローラだからできた、ということもあるのだが、その決断が素晴らしい。
つまり、クーペ・モデルに限っては、フロントエンジン/リアドライヴを残し、その名もカローラ・レビン/スプリンター・トレノと差別化を図ったのだった。
ノッチバックの2ドア・クーペだけでなく、ファストバック・スタイルの3ドア・クーペも用意し、クルマ好きの拘りと好みに応えたのだった。それが型式AE86、つまりは「ハチロク」というわけである。
さらに書き加えておくと、「ハチロク」の廉価版として1.5L、SOHCエンジンを搭載したモデルAE85も用意されたのだから、まあ至れり尽くせりであった。
余談だが、この「ハチゴー」はAE86ほどの走り屋のクルマでなかったことが幸いし、いま頃になっては程度のよいAE85に、AE86に使われていたツウィンカムを組合わせて、趣味のクルマとして愛好している人が少ないというから、その存在価値は小さいものではないのだろう。
■「ハチロク」魅力のスペック
1970年代はトヨタの名エンジンといわれた2T-G型が人気の的だったが、この「ハチロク」の時代にはついに新開発のエンジンが搭載された。パワーの点だけでなく、いろいろな規制に対応せねばならず、やはり新開発エンジンが求められたのだ、という。
4A-GEU型と呼ばれる新エンジンは、愛称「レーザーα4Aツウィンカム16」と名付けられ、燃料噴射などの対策も施された新時代のエンジン、という印象であった。従来の2T-GEU型の115PSから10%以上アップの130PSにパワーアップしていた。
面白いのはシャシーで、実は四代目のシャシーを軽重化するなど改良の上、継続使用することで後輪駆動を実現していた。したがってフロントがマクファーソンストラット+コイル・スプリング、リアが4リンク+コイルという足周りは変わりない。
足周りをハードにチューニングしたレビンGTV/トレノGTVというモデルもあったが、基本的にパワーの方が足周りより勝っており、ドライヴィング・テクニックひとつで愉しく走れた印象がある。
2ドアと3ドアの大きく分けて2種のボディがあることは書いたけれど、これがまたレビンとトレノでそれぞれに趣向が凝らされていて面白かった。角形ヘッドランプ付のレビンには、温度で開閉する「エアロダイナミック・グリル」が、トレノはリトラクタブル・ヘッドランプで話題を呼んだ。
ブラック&ホワイトの2トーン塗装の3ドア・トレノが、例の漫画とともに特別人気になったのが記憶される。こうして「ハチロク」は忘れられない一台になったのだった。
【著者について】
いのうえ・こーいち
岡山県生まれ、東京育ち。幼少の頃よりのりものに大きな興味を持ち、鉄道は趣味として楽しみつつ、クルマ雑誌、書籍の制作を中心に執筆活動、撮影活動をつづける。近年は鉄道関係の著作も多く、月刊「鉄道模型趣味」誌ほかに連載中。季刊「自動車趣味人」主宰。日本写真家協会会員(JPS)
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