いまや日本のスポーツカーの代表のようにいわれている人気の「ハチロク」。フロントエンジン/リアドライヴを守り、2012年に発売以来、多くの注目を集め昨2021年にモデルチェンジして二代目に移行しているのはご存知の通りだ。
その「ハチロク」、ネーミングをはじめとして、かつての名車に由来していることはご存知だろうか。そう、1983~87年につくられていたトヨタ・カローラのいちモデル、トヨタAE86型、レビン/トレノの愛称だったのだ。
グループAとして「全日本ツーリングカー・チャンピオンシップ」で活躍しただけでなく、英国の「BTCC(英国ツーリングカー・チャンピオンシップ)」、欧州の「ETC(欧州ツーリングカー・チャンピオンシップ)」などでも、めずらしい日本車ということもあって注目を浴びた。
だがそんなこと以上に、漫画「頭文字D」のヒットによる影響は大きく、いまだ多くの熱心なファンが存在しているのは、先述した通りだ。
文、写真/いのうえ・こーいち
■五代目カローラのスポーツ版
ちょうど「ハチロク」の時代に累計生産台数1000万台を記録し、1997年にはVWビートルを抜いて世界一の量産モデルとなった。いうまでもなく、カローラはわが国の小型車の代表である。2013年7月に前人未到の4000万台を達成して、いまなおその数を伸ばしている。
1966年に誕生した初代の「10系」トヨタ・カローラから数えて五代目に当たる「80系」カローラが登場したのは1983年5月のことだ。
最初はカローラのクーペ・ヴァージョンに付けられていたカローラ・スプリンターの名が、1970年の二代目カローラの時代から独立したモデルとなり、いわゆる姉妹車として別々の販売店で売られることになった。
その20系カローラの次、1974年~の第三代目はカローラが30系/50系、スプリンターが40系/60系と型式も分けられたりしていた。
20系カローラの時に、ツウィンカムの名機といわれる2T-Gエンジンを搭載したスポーツ・モデルをカローラ・レビン、スプリンター・トレノの名前で発売、モータースポーツでの活躍もあって人気を博した。
だいたいが1.2L級の軽量ボディに、1.6Lの強力エンジンの組合せなのだから、走らせて楽しくないわけがあるまい。
で、1979年3月に発表された第四代目70系からはふたたびカローラとスプリンターは同じ型式に統合され、そして第五代目が80系となったわけだ。
■「FR」ヘの拘りが人気を呼ぶ
80系カローラの最大の話題は、ここに至ってカローラとして初めてFWD、エンジン横置きの前輪駆動を採用したことだった。
4ドアのサルーン、5ドアのリフトバックがラインアップされ、1.3L~1.6Lのエンジンが搭載された。トヨタのすごいところというか、それだけに済まさず、しっかり後輪駆動のモデルを残したことが「ハチロク」のヒットに結びつく。量産モデルカローラだからできた、ということもあるのだが、その決断が素晴らしい。
つまり、クーペ・モデルに限っては、フロントエンジン/リアドライヴを残し、その名もカローラ・レビン/スプリンター・トレノと差別化を図ったのだった。
ノッチバックの2ドア・クーペだけでなく、ファストバック・スタイルの3ドア・クーペも用意し、クルマ好きの拘りと好みに応えたのだった。それが型式AE86、つまりは「ハチロク」というわけである。
さらに書き加えておくと、「ハチロク」の廉価版として1.5L、SOHCエンジンを搭載したモデルAE85も用意されたのだから、まあ至れり尽くせりであった。
余談だが、この「ハチゴー」はAE86ほどの走り屋のクルマでなかったことが幸いし、いま頃になっては程度のよいAE85に、AE86に使われていたツウィンカムを組合わせて、趣味のクルマとして愛好している人が少ないというから、その存在価値は小さいものではないのだろう。