■引退セレモニーに来てくれた国さん
――土屋さんがGTを引退する時に、国さんにはなんて声をかけられたんですか?
「引退セレモニーあるって全然知らなかったの。国さんも亜久里も俺に黙ってたんだよね。ホンダもブリヂストンも、オートバックスも、全員内緒にしてたから、俺は静かに引退レースを終えるんだろうなって思ってた。そしたら、引退セレモニー始まって、『えっ?』って。
ましてや国さんが最後に出てくるし。これはね……涙止まんないでしょう。最後に神を出してくるか! って。おそらく亜久里の演出だったと思うんだけどね。もう国さんに何言われたとか、覚えてない。『うわ、国さんいる、やばい』涙腺崩壊して、あとは真っ白」
――おふたりともドライバーではなくなった後は、どんな関係性だったんでしょうか?
「親子みたいなもんですかね。いつも一緒にいるし、飯を食いに行くとこも一緒だし、本当に不思議なんだけど。亜久里にふたりの関係を疑われるくらい(笑)、一緒になることが多かった。
レースって、朝から夕方まで1日あるじゃないですか。でも、タバコ吸うタイミングが僕と国さんが全く一緒なの(笑)。もちろん連絡して合わせてるわけじゃないですよ。ピットを出て喫煙所で火をつけると、国さんも出てくる、みたいな。それが1日に3、4回あって必ず一緒になる。だから何なんだろう、って。
神様のいたずらみたいなものがあるんじゃないですかね。ご飯も意図せず一緒になったり。紙タバコをやめてアイコスにした時も、ほとんど同じタイミングだった、なんてこともありましたね。身内みたいに呼吸が合うというか」
――土屋さんは、ホンダドライバーの育成にも携わっていたと思いますが、国さんの影響を受けたところはありますか?
「国さんに教えてもらったまんま、やってますよ。22 年間ずっとそれでやってる。汚いことは絶対するな。走り方とか自分の心拍数を常に抑える、とかね。タイヤカスをうまく使え、とか。全部若い子たちに教えてる。
若い奴らはね『土屋って、うるせえなぁ』と思ってると思いますけどね(笑)。だけど、僕は国さんから教わったことを、今の子たちに対して形にしています」
――答えづらい質問かもしれませんが……昨年のスーパーGT最終戦で、ARTAの55号車がチャンピオン争いをしていたチーム国光の1号車に当たってしまった、ということがありました。そこで国さんとは何を話されたのでしょうか?
「国さんは、わざとぶつかった時以外は、謝罪するのが当たり前。やっちゃったことはしょうがないんだよ、っていう考えだったんですね。
JTCCって毎回ぶつけ合いだった時があって、その時に国さんはそうおっしゃってました。自分がやっちゃったら謝罪はしなきゃいけない。ただ、それ以上サーキットから持ち出しちゃいけない。そこできちんと謝罪するか、謝罪しないんだったら、次のレースで自分も同じことをやられるって覚悟を持たなきゃいけないって。
それがあったから、昨年は亜久里とドライバーを連れてとにかく謝りに行きました。
あれはもうほんと、チャンピオン争いしてるクルマなんだから絶対やっちゃいけないことですから。しかも同じホンダだしね。ドライバーに謝るだけの問題じゃ済まされない。ホンダ、ブリヂストン、スポンサー、ファン、全ての人に対する問題だから。
レースが終わってから、とにかく国さんのところに謝りに行って。でも怒んないんだよね、あの人。『しょうがないよね、これもレースだから』って。90年代からずーっと言うことが変わってない。
普通だったら『ふざけんなコノヤロー!』ってなりますよ。でも国さんは『しょうがないよね』って。謝る側からしたらそれで済まないから、国さんが消えていくまでずっと頭下げてましたよ」
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