■かつては1ヵ月平均でノアが4390台、ヴォクシーが7334台でヴォクシーが圧倒していた
現行ノア&ヴォクシーの発売は2022年1月だから、半導体を始めとする各種の原材料が滞るなかで登場した。そのために販売店によると「ノアとヴォクシーの納期は、ノーマルエンジンが約半年、ハイブリッドは1年前後を要する」という。これでは納車も順調に進まず、登録台数は少し不本意な数字になっている。
それでも2022年3月には、ノアは7046台、ヴォクシーは7691台を登録した。両姉妹車を合計すると1万4737台に達するから、コンパクトカーのルーミーやノート(ノートオーラを含む)に迫る台数だ。国内販売ランキングの上位に食い込む。
ここで注目されるのは、ノアとヴォクシーの登録台数が同程度になることだ。先代型の場合、新型コロナウイルスの影響を受ける前の2019年は、ノアが1ヵ月平均で4390台を登録して、ヴォクシーは7334台であった。ノア&ヴォクシーの63%をヴォクシーが占めた。
2020年に入って全店が全車を扱う販売体制に移行すると、先代ヴォクシーは標準ボディを廃止して、エアロパーツを備えるZS系のみになった。
それでも2021年の1ヵ月平均登録台数は、ノアが3684台、ヴォクシーは5840台だ。ヴォクシーはエアロ仕様のみだが61%を占めて、標準ボディを用意するノアよりも多く売られていた。
現行型は2021年10月に発売前の予約受注を開始して、2022年1月初旬の時点で、3万台以上を受注していた。この時点の販売比率は、ノアが40%、ヴォクシーは約60%であった。
予約受注の段階では、メーカーのホームページなどに価格を始めとする詳細は掲載されず、需要の大半は先代型からの乗り替えだ。先代型の販売動向が現行型にも継承され、ヴォクシーが約60%を占めた。
それなのに2022年3月の登録台数は、前述の通りノアが7046台、ヴォクシーは7691台だ。ヴォクシーが上まわるものの52%に留まり、先代型や現行型の予約受注における60%に比べて比率が下がった。逆にノアは、現行型の発売から時間が経過すると比率が増えている。
そして4月にはノアが5697台(7位)、ヴォクシーが4707台(9位)とノアが逆転し、ノアの比率は55%に上がった。
この点について販売店では、以下のように述べた。
「予約受注の段階では、先代型からの乗り替えが中心で、ヴォクシーの比率が高かったですね。それが時間の経過に連れて、ノアが増えています。ノアやヴォクシーを初めて購入するお客様の場合、先代型ではファミリー層がノア、若いお客様はヴォクシーを選んだが、最近は傾向が変わってきています。若いお客様もノアを選ぶことが増えましたね。フロントマスクのデザインが影響して、以前に比べると、ヴォクシーは選ばれにくくなっています」。
現行ヴォクシーは、先に述べた通り、今までのミニバンでは満足できない個性的な外観を好むユーザーをターゲットにしている。この影響で、ヴォクシーが減り、ノアとの販売比率も50%ずつに近付いた。
■裏にはトヨタの周到な販売計画があった!
今後はこの販売傾向が加速して、ノアが60%、ヴォクシーは40%という具合に、販売比率が逆転していく傾向が強まっていくと考えられる。
そうなれば、まさにメーカーの狙い通りだ。メーカーの設定している1ヵ月当たりの販売基準台数は、ノアが8100台、ヴォクシーは5400台になるからだ。合計すると1ヵ月に1万3500台で、ノアが60%、ヴォクシーは40%の比率になる。
当面の間は、標準ボディとエアロ仕様を用意するノアが好調に売られ、時間が経過して飽きられ始めると、個性の強いヴォクシーに特別仕様車を設定するなどのテコ入れを図る。ノアとヴォクシーの役割分担を合理化して、息の長い人気を保つためにも、発売当初はノアが多く売られた方が都合は良い。
またアルファードとヴェルファイアの売れ方を見ると、現行型の登場時点では、ヴェルファイアが多かった。
その後、アルファードがマイナーチェンジでフロントマスクの存在感を強めると、販売順位が逆転してアルファードが優勢になった。
さらに全店が全車を扱う体制に変わると、両車の販売格差は一層拡大した。このように全店が全車を扱うと、需要の食い合いが激化して姉妹車は成立しにくい。
これは姉妹車をリストラするトヨタの思惑通りだが、ノア&ヴォクシーの場合は、前述の通り姉妹車を残したい。
お互いに食い合っては困る。そこで人気の高かったヴォクシーを現行型では少し飛躍した顔立ちに仕上げ、売れ行きをコントロールしている面もある。
以上のように、かつて販売の中心だったヴォクシーの販売比率が減り、ノアが増えるのは、トヨタの販売戦略にピッタリと沿っているのだ。
こういった綿密な商品戦略は、かつてトヨタの得意ワザだったが、最近はあまり見られなかった。コンパクトな車種では、最終型のヴィッツ、パッソ、ルーミーなどの質感が低く、現行型のヤリスやヤリスクロスも褒められた仕上がりではない。
その点で現行ノア&ヴォクシーは、久しぶりに総合的な商品力が高い。居住性ではライバル車のセレナやステップワゴンと差が付きにくいから、安全装備、運転支援機能、快適装備、ハイブリッドの燃費性能を大幅に向上させた。
このような国内市場を見据えたクルマ造りを行えば、クラウンをSUVに変えるような失態も避けられるだろう。現行ノア&ヴォクシーは、他社だけでなく、トヨタ自身にとっても、改めて注目すべき商品に仕上がっている。
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