日本の自動車産業に必要な「ロシア産資源」は?
先述したロシア産資源のなかから、日本の輸入額の高いものをピックアップすると、主に以下の3品目に絞られる。
【日本の輸入比率が高いロシア産資源】
自動車排ガス触媒
●パラジウム(加工してないもの及び、粉状のもの)
日本の輸入割合/南アフリカ42.6%、ロシア29.6%
(総額403億円、2022年2月)
●プラチナ白金(加工してないもの)
日本の輸入割合/南アフリカ67.8%、ロシア12.3%
(総額1兆2463億円、2021年)
構造部品
●アルミニウムの塊(くず)
日本の輸入割合/ロシア19.9%、豪州16.4%
(総額6837億円、2021年)
排ガス触媒に使用される「パラジウム」は、日本は現状、約30%(2月単月)をロシア産に依存している。また、アルミニウムの「塊(くず)」の輸入量も多く、日本に入ってくる約20%(2020年)がロシア産だ。しかし、パラジウムは輸入相手国の1位は南アフリカであり、アルミニウムにはさまざまなカタチの資源・製品があるため、他国からの輸入にシフトできれば不足を回避できる可能性はある。ただし、2月以降、一時的には相場は劇的に上がり、特にパラジウムはその後も相場が安定していない。
また、日本におけるロシアからの直接輸入量は少ないものの、自動車の構造部品の素材であるニッケル、クロム、マグネシウム、鉄鉱石などは、世界的な供給不足に見舞われると予想され、一部はすでに価格が高騰している。ニッケルやクロムは、ステンレス鋼を製造する際の添加剤としても使用される鉱物だ。
現在はまだ日本国内にこれら資源の備蓄がある。しかし、ウクライナ情勢が硬直化し、日本からロシアへの経済制裁やロシアによる輸出停止が長期化すれば、その備蓄も底をつく。そうなった時、資源の相場価格がさらに高騰した結果、モデルチェンジとは関係なく、国産車の価格が上昇する日が来るだろう。
EU自動車業界が直面する危機
ウクライナ戦争が勃発したことで、日本以上に深刻なダメージを受けているのがEU諸国の自動車業界だ。
欧州自動車部品工業会(CLEPA)によると、EUはウクライナから、鉄鋼(29%)、半導体生産に必要なネオンなどの貴ガス(Noble Gas)を輸入し、ロシアからは日本と同様、パラジウム(42%)、プラチナ(12%)、ロジウム(9%)、ニッケル(11%)の他、一次アルミニウム(9%)や鋼材半成品(42%)を購入してきた。
しかし、ロシアがウクライナに侵攻する前後から、それら原材料のロシアからの供給の大部分が停止された。その結果、すでに2月末から納品ができなくなった企業もある。
また、ウクライナ西部には自動車関連産業が集積している。そこで生産される配線やケーブル類は欧州の自動車メーカーに供給されていたが、そのラインが停滞したことにより、フォルクスワーゲンなどの生産に影響が出ているという。
一方、ロシア国内には、ルノーなど大手自動車メーカーの生産工場が34カ所あり、そこへEUの自動車部品メーカーは大量のパーツを供給してきた。つまり、EUにとってロシアは重要な自動車関連部品の輸出国だった。しかし、今は欧州とロシアの激しい貿易規制合戦が繰り広げられているため、その輸出入が停滞、または停止している状態だ。
ウクライナとロシアに関わる欧州の自動車・パーツメーカーでは、素材調達、部品供給、生産ライン、対外貿易と、あらゆる局面で支障が出ている。そこに追い打ちをかけるのがロシア産エネルギー資源を巡る問題だ。
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