■クルマの運転=スポーツである
では、その運転技能検査の内容とはどんなものだろうか? 詳細は不明だが、普通自動車でコース内を走行し、一時停止や右左折等の課題を実施して採点を行い、検査結果をもとに適切な運転方法等を指導する、となっている。
筆者が考えるに、この運転技能検査を3回受けても不合格になる高齢運転者は、もう免許を返納したほうがいいだろう。
ここでお断りしておくが、筆者は高齢運転者の免許返納を奨励し、背中を押してあげることの推奨論者ではない。高齢運転者の『安全運転寿命を延ばすレッスン』(小学館刊)なる本を執筆し、どうすれば高齢運転者が安全に移動の自由を楽しみ、生活のための足として長くクルマを運転できるのか、という方法を提唱させてもらっている。
とはいえ、どんな高齢運転者でも免許更新をするべきとも考えてはいない。
クルマの運転はスポーツだと筆者は考えている。筆者自身がレーシングドライバーだったからというのもあるが、どんなスポーツも加齢とともに技術レベルは低下してくる。クルマの運転も同じで、認知・判断・操作という運転の3要素の総合レベルが低下してくる。
■スポーツにトレーニングは有効
そこで高齢になっても安全に運転を続けるためには、運転レベルが穏やかな下降線を描くように低下するようトレーニングを50~60歳台から行う必要がある、と筆者は考えるのだ。つまり、70歳を過ぎるまで何も行わず、まるでシロモノ家電を扱うように運転をしてきたのでは、この運転技能検査に合格できる確率は低いだろう。
それでも地方のようにクルマが足となって、ほぼ毎日運転をしている高齢運転者などの合格率は高いと考える。いちばん危険なのは月に数度以下しか運転しない、あるいは運転しなくても生活に不便を感じない高齢運転者だろう。
こういうシチュエーションにある高齢運転者は、自分の運転技術の低下になかなか気づかない。体幹筋が加齢により疲弊していても、昔と同じドライビングポジションで平然と運転している場合が多いのだ。そのために足が伸びきってアクセルとブレーキの踏み間違いを起こしたりする。
また加齢とともに老眼(老視)になる。乱視になる人もいる。クルマの運転で重要なのが視認。90%以上を視力、つまり見ることに頼っている。特に最近のクルマは安全対策の構造上ダッシュボードの位置が高くなり、Aピラーも太い。このため前方及び側方視界がよくない。
今一度、しっかりした視力検査をするべきで、検査をパスしたから眼鏡は要らないと考えるのは間違いだ。筆者は眼鏡等の条件はないが、普段も運転も眼鏡を常用している。ナビやメーターも、そして前方も後方もしっかり見え、なおかつ疲れにくいからだ。
■免許を返納しても社会と繋がれる街を
高齢になると疲れやすい。さらに疲れると回復に時間がかかる。あなたが晴れて運転免許更新ができたとしても、運転疲労というものに真剣に向き合ってほしい。運転疲労が一番の事故原因と筆者は考えているからだ。
高齢になっても運転疲労を起こしにくく、ある程度早い回復力を維持することが安全運転に必要なこと。そう考えると、身体の準備を日々行うことが重要なのだ。それが健康寿命にもつながる。最近ではサポカーを含め、ACCとLKA(車線内中央維持)を装備するクルマが増えてきた。このような安全機能を装備したクルマを選ぶことで運転疲労も抑えられる。
新しく導入された運転技能検査によって、更新できずに運転免許を返納する人は増えるだろう。返納促進のために各地方ではさまざまな特典を設けているが、1万円レベルの公共交通回数券やタクシー券がほとんど。これはひどい。
免許を返納した高齢者が引きこもりがちになり社会と断絶して認知症になって亡くなる、という話をよく聞く。高齢者が免許を返納しても、社会生活をスムーズに営めるようなケアの構築を早急に行う必要がある。そうなって初めて高齢運転者の免許返納を、誰もが推奨できる社会になるのではないだろうか。
筆者は、個人的には高齢になっても安全運転ができる運転者が増えることを望んでいるのだが……。
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