■代替わりとともに得たものと失ったもの
13代目のキャリーオーバーとして2012年12月に登場した14代目は、王冠をモチーフにしたフロントグリルが賛否を呼んだ。オーナードライバー向けに存在感を示したようなのだが、すでにメインニーズともいえるハイヤーや社用車、個人タクシーとして使うには少々目立ちすぎるという声が多かった。
そして現行15代目は2018年6月に登場した。シリーズでは類を見ない、1度もマイナーチェンジを行わずに次世代モデルへバトンタッチすることとなる。一部改良でインパネを大幅変更するなど、販売台数ではいまひとつだったものの話題には事欠かなかったことになる。
ファストバックスタイルを採用し、走行性能も相当進化したとされたが、実際に乗ってみると“これでクラウン?”というものを感じてしまった。足回りの硬さなどは個人の好き嫌いはあるだろうが、とにかく運転していると“うるさい”のである。
クラウンというクルマは、代々乗り継いでいるオーナーからすると、「某他メーカー同クラスモデルに乗り換えたら、燃料タンク内のガソリンがポタポタいう音が聞こえた」というぐらい(本当なのか?)静粛性への高いこだわりのなか歴代モデルは開発されてきた。
“キャラ変”云々の前に、代を重ねるごとに失ってしまったものが大きかったのではないかとも感じている。
アメリカンブランドでは、GM(ゼネラルモーターズ)や、ステランティスのクライスラー系ブランドではいまもOHVの大排気量V8エンジンを搭載するモデルがある。そして、新しくエンジニアとして入社すると、“アメリカンV8 OHVとは何ぞや”というものが先輩から伝承されるとのこと。
何を受け継いできたかを知り、それを新しい、例えばBEV(バッテリー電気自動車)などで世界観を実現すれば、「やっぱりアメ車だ」となるのだが、日系ブランドはどうもその辺りが苦手なようにも見える。進化するのは構わないが、“クラウンとしてはずしてはいけないもの”があったはずではないかと考える。
歴代モデルを駆け足で見てきたが、まずターニングポイントとしては“タクシー車両”との決別がある。東京などでは4年間で50万kmあたりまでタクシー車両は走行するといわれている。そのタクシー需要のなかで培われた耐久性能の高さはまさにクラウンの“宝”ともされた。
また、筆者などはドイツへ出張に行き空港から市内までメルセデスベンツのタクシーに乗っただけで、“なんかドイツってすごい”と思ってしまう。日本でも自動車が庶民からは遠い存在のころでも、クラウンのタクシーに乗れたことは大きいし、それがそれほどクルマに興味のない人でも“クラウン=高級車”というイメージを根づかせてきたとも考える。
しかし、コンフォート系にタクシー車両を分けてからすでに30年近く、コンフォート自体がなくなってからも5年が経とうとしている。トヨタが次期型でも重視している若い世代ほどクラウンというネーミングへの愛着も何もない。
そういう意味では過去を全否定してもよいかもしれないが、まだまだ“いつかはクラウン”時代を知っている人も新車を購入する“お客”としては存在している。
キャデラックは確かに大昔とはまったく異なるものとなったが、XT5(SUV)あたりのミドルモデルを運転すると、V8ではなくV6エンジン搭載とはなるものの、「ああ、キャデラックだなあ」という世界観を感じることができる。
長い歴史のあるモデルだけに、最新モデルでもその歴史の一片を体験できるようなクルマ造りが大切だと思うが、果たして次期型クラウンでは“やっぱりクラウンだな”という部分はあるのだろうか。
またクラウンは“失敗のないクルマ”のようにも見えるが、4代目くじらクラウンをはじめ、3代目や9代目あたりもマイナーチェンジで“大改良”を実施している。また、モデルの問題ではないが、バブル期にはシーマ現象にも悩まされている。歴史が長いだけに、車両開発には相当苦労が重なることにもなるだろう。
最後に気になるのは次期型がさらにパーソナルユースを強めた場合、社用車やハイヤーなど、トラディショナルな需要をフォローするモデルは日本車からはなくなることになる。
自動車だけではなく、今の日本では“作れないもの”が多くなっていると聞くが、トラディショナルな4ドアセダンは今後日本国内ではメルセデスベンツやBMWなどの外資に取って代わられることになるのだろうか?
まあ、セダンにこだわらなければ、日本にはランドクルーザー300やアルファードがあるから心配することはないのかもしれない。
街なかでの次期クラウンに対する反応が聞けた。
まずは販売現場であるトヨタ系ディーラー「クラウンがモデルチェンジすると聞いてご興味を示しておられたお客様がいらっしゃいました。しかし、次期型のご案内をすると、『これならいらない』と購入を諦められました」とはセールスマン。
さらに、街なかでクルマ好きとも思える男性の集団の“クルマ談議”に耳を傾けると、「今度のクラウンって本当にあんな風になるのかなあ(ネットニュースなどの予想イラストのこと)」と切り出すと、「ハイヤーやパトカーとしてはまず使えないが、どうするんだろ?」などとクラウンネタで盛り上がっていた。
クラウンに限らず最近のトヨタ車はそのエクステリアに対し不安の声をよく聞く「『これ大丈夫なのかな』と最初は思うことが多いです。次期シエンタも少々不安ですが、そのうち慣れていくんですよね」とは前出セールスマン。
トヨタは国内販売で圧倒的な販売シェアを持っているので、デビューして販売活動を進め、街なかに多く走りだすと自然に街の風景に溶け込んでいき、デビュー当初の不安が消し飛んでいく。そう話すひとが、それを“トヨタマジック”と呼んでいた。
次期クラウンもまずは“トヨタマジック”効果が出るほど量販できれば(つまり成功モデルになること)、今言われている“不安”は消しとび、“これぞクラウン”ということになるだろう。
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