「壊れない」だけじゃない!! 世界の紛争地で日本車と日本製品が活躍する理由

「戦争と自動車」トヨタから世界が得た回答

 世界の紛争地帯や先進国以外の軍隊や警察では、まるで制式装備であるかのように、ランドクルーザーなどのトヨタ社製車体を改造した特殊車両をよく目にする。

 筆者は2017年から2019年にかけて、JICAの海外安全・救命教育や日本企業進出のための安全調査などで、中央アジア、東南アジア、南米、アフリカ大陸の発展途上国14か国をまわったが、どこに行っても日本人(の安全保障関係者)とわかれば「I love TOYOTA!」と声をかけられた。

フランスBSE Ambulances社 展示ブースにて掲示されていたもの
フランスBSE Ambulances社 展示ブースにて掲示されていたもの

 上記写真はEurosatory2022のフランスの出展企業が掲示していたものだが、リベリアでは似たような改造を施されたランドクルーザーが国連、赤十字、現地の病院、UNHCRのいずれでも運用されていたほどだ。

装甲車、戦闘車の「壊れる部分」「壊れない部分」

 トヨタのクルマは故障が少ない。そのいっぽうで、軍隊での使用は平時の使用ではあり得ないほどの酷使であり、爆弾の破片、銃弾により壊れることが前提である。そのため(「故障が少ない」という前提条件をクリアしてなお)、

1/壊れても短時間で直せること
2/部品の供給が途絶えないこと
3/整備士の養成を最少で済ませられること

が求められる。

 こうした条件で、ランドクルーザーが最適となる。

 意外に思われるかもしれないが、軍隊にとっての車体の壊れる部分とは、エンジン、車輪など「駆動系」と「足回り」のことだ。シャシーの上に載っている「車体」のことではない。装甲化された車体が戦闘以外で壊れることは滅多にないし、砲弾などで車体が破壊された時は、乗員も含めて車両そのものが失われた時だ。このため、先進国以外の軍隊では、民間に広く流通しているRV車に防弾坂を取り付けたほうが、修理もしやすくランニングコストも最少で済み、国内のどの整備工場に持ち込んでも直すことができる。

 専門の整備士を育成する必要もないことは、戦闘員以外の人員を養わなくて済むため、軍隊としても大助かりだ。

 ならば、ということで、冒頭のエジプト、イーグル社のように、トヨタ自動車から足回りだけを売ってもらい、自前で製造した装甲化した車体を載せて軍隊に納品するビジネスが生まれる。

 軍隊とは本来「自己完結の組織」である。修理も整備も自前でできるべきである。これまでは、そうした顧客の特性に応じて、企業は「特別な車体」を売り、「特別な部品供給」で継続した利益をあげ、ハイテク化に伴う教育と整備まで請け負ってきた。アメリカの軍需産業では特に顕著だ。

 しかし近年では、トヨタの民用車体を使うという真逆の発想が先進国の軍隊にまで受け入れられ、ベンツまで追随するようになった。

 民間に流通している車両であれば、軍隊が新たに操縦手や整備士を専用に養成する必要がない。交換部品が多く流通していれば、軍として備蓄や保管する必要も少なく、専用の整備工場を建設せずにすむため、戦い続けるうえでも便利だ。

装甲車、戦闘車は化石燃料でなければ運用できない

 Eurosatory2022では、EV(電気自動車)の展示は皆無に等しかった。戦場にはEV車を運用できる環境などないからだ。戦闘部隊の車両すべてをEVとした場合、作戦地域に発電所を建設することになるが、そんなことはとてもできないし、発電所が破壊されればEV車は短時間のうちに動かなくなる。

 また「戦い続ける面」でも、大量の畜電池の供給に依存するEV車は不適切だ。先進国の軍隊に内燃機関とモーターを組み合わせたハイブリッドの軍用車両化の傾向が見られる程度で、それ以外はすべて化石燃料で動く車両だ。

 この点で言えば、日本政府の経済・財政運営の指針「骨太の方針」にある「2035年までに新車販売で電動車100%」という記述に、自動車業界トップの豊田章男社長(自工会会長)が圧力をかけてこの記述を「いわゆる電動車」とし、EV、FCV(燃料電池自動車)だけでなく、PHV(プラグインハイブリッド自動車)及びHV(ハイブリッド自動車)を含ませたのは、国土防衛の観点から「大正解」といえる。

 国内の自動車の大半をEVとしてしまっては、戦闘車両が動かないばかりか大規模自然災害への対応力まで低下してしまう。

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