歴史から日本に期待するものの回答
明治44年(西暦1911年)に、ドイツのドレスデンで開催された万国衛生博覧会にて注目を集めた日本製品がある。
作業用能動義手「乃木式義手」である。
乃木希典陸軍大将が日露戦争での上肢切断者用に、ものをはさめるように開発したものだ。乃木大将は石黒忠悳軍医総監と少尉以来の友人であったため、石黒総監が収集した資料をもとに自ら図面を引き、製造には独特な拳銃の設計で有名な南部麒次郎砲兵少佐の協力を得て完成させた。
これは当時の世界では前例のないものであった。腕を失った傷痍軍人が、乃木式義手により文字を書けるようになり、第一次世界大戦後のドイツでは乃木式義手とまったく同じ構造の義手が製造され、腕を失った傷痍軍人の社会復帰に採用された。
これが、前項の冒頭で「我々には日本のトヨタとコマツと義肢が必要である」と述べた「義肢」のことだ。電気を用いず簡単な構造であるため、安価に大量に生産することができる。
戦争が行われている地域では、こうした義肢がまさにいま必要とされていた。筆者は会場にて、アルジェリアで右脚を失ったスイス人ジャーナリストと知り合い、戦争において義肢が重要であること、特に戦争中は特別な技術や整備を必要としない「野整備義肢」が求められていることについて、詳しく知ることができた。
日本が世界に対してすべきことの回答
日本は天然資源の量に乏しい国であるから、加工貿易や観光業など、海外との良好な関係を維持しなければ発展していくことができない。
筆者は今回、ウクライナブースも取材したが、たとえ日本に武器の輸出を求められても優れた武器は開発できないし、すべきでもないということをあらためて実感した。そのうえで、日本は先進国としての国際社会における責任も果たさなければならない。
直接戦闘に加担しない方法で役に立つ日本製品は何か。「Eurosatory2022」にて実績と歴史から得られた回答は、これまで述べたとおり、トヨタの足回りという製品、コマツの建設機械、そして義肢だった。
義肢の分野は、欠損した部位や機能を補うことに留まらない。平時にも共通する将来の大きな発展が見込める産業だ。
義肢技術から発展したものが「Powered exoskeleton(強化外骨格)」であり、多くの軍隊で研究がなされている。
「Eurosatory2022」で実用品として展示されていたのはカナダとオランダの企業のもので、オランダ製品には日本の技術が活かされている。
展示品のいずれも共通しているのが、電力など外部動力を必要とせず、人の動きや重力からエネルギーをため、それにより重量物を持ち上げたり、登り坂を上がる動作を補助するものだ。
少子高齢化が進み、国土の70%が山地である日本において、「Powered exoskeleton(強化外骨格)」は介護の分野のみならず国土防衛、産業面でもおおいに役立つ。また、義肢に国境もなければ敵味方の区別もないため、日本が率先して取り組むべき分野だ。
さらにいえば、いまウクライナでは野整備義肢が熱望されている。「野整備」とは専門の設備や技術者を必要とせずに現場で組立・調整ができる機能のことだ。安価で大量に短期間で揃えられることも求められる。
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