世界の紛争地で日本製品が大活躍!! 激動の国際情勢で日本が出来ること、必要なもの

圧倒的に足りない「義肢」を日本製で

 戦傷病者数の尺度として、手足を失うなど社会復帰が困難な負傷者が、戦死者数の約3倍発生する。さらに負傷者数の3倍もの人が、PTSDなどの精神疾患によって生活に支障をきたすようになる。

 その年齢層の多くは、働き盛りの国の屋台骨だ。

 戦闘が終わっても、長いあいだ地雷や不発弾が住民を苦しめる。ウクライナ政府担当者は、国内の地雷や爆発物をすべて撤去するには少なくとも10年かかると予測していた。戦争が終わっても手や足を失う人が継続して出続けるということだ。

 戦傷病の治療では、生命は機能に、機能は外観に優先させるのが鉄則だ。平時の医療であれば設備の整った環境で、損傷した手足を丁寧に治療し温存することが可能だ。しかし戦場で、限られた医療資源を節用し、治療能力に比して傷病者数が圧倒的に多い状況では、救命のために患肢を切断せざるを得ないケースが増える。

 生命は手足の機能に優先するのである。

 手を失ったならば、前腕を裂いて橈骨と尺骨を分離することで「指」とするクルッケンベルグ手術が行われることがある。「手という機能」は「前腕の外観」よりも優先されるためだ。

 戦地に限らず、義肢の需要は世界中で平時から恒常的にあるものだ。たとえば義足でいうと、必要とする患者数は世界中で約6500万人いる。その一方で、費用や技術の問題、義肢装具士の不足などで義足が装着できている人はわずか5%である。義足を必要とする患者は毎年150万人ずつ増えており、2050年には1億3000万人を超える予測もある。(ISPO:International Society for Prosthetics and Orthotics 国際義肢装具学会)

 ロシアによるウクライナへの軍事侵攻によって、現在までの戦死者から割り出した義肢の需要は、軍民併せて13万5000セット以上と見積もられる。

 しかし、本格的な義肢は高価であり製造にも日数を要し、装着までの調整は1人ずつ個別に行う必要がある。

 肘から先、膝から先の義肢の価格は30万~50万円、上腕部からの義手、大腿部からの義足であれば100万円を超えるため、安価で短期間に数を多く揃えられ、特殊な技術を必要としない、当面の間の繋ぎとなる「野整備義肢」が必要とされているわけだ。

株式会社小原工業「HOPE事業図」(照井氏作成)
株式会社小原工業「HOPE事業図」(照井氏作成)

 上記図は、義肢装具総合メーカーである株式会社小原工業が、1946年の創業依頼の実績から使用者自身が組立・調整ができる安価な義足を開発した“HOPE”事業について表現したものだ。その特長は野整備義足として理想的であり、「Eurosatory2022」での意見聴取では高い評価を得られ、多くの期待が寄せられた。

 脚を失っても義足があれば自分で歩くことができる。手を失っても義手があれば生活ができる。移動と作業ができれば社会と関わることができる。機能が充実した義肢を装着できるまでの繋ぎとして野整備義肢があれば、労働力が維持されて復興支援に役立つ。外傷が塞がり次第、動けるようになることは、「避難できる」、「働いて生計を立てられるようになる」ということだ。

 これは傷病者の人生を繋ぐことに役立つ。兵役年齢層は労働人口の中心そのものであるから、その社会復帰はウクライナの経済を支えることになる。それは日本の国際的評価の向上にも繋がるものだ。

義肢産業は身体能力の「支持」「増強」の分野へと発展していく

「野整備義肢」は治療が終われば生涯使用する義肢に交代することになるが、その後、長年使用する義肢の構造や技術を「Powered exoskeleton」へと応用したり、共通化することで、欠損した機能を補う「補足」に加え、「支持」「増強」の身体的能力に関わるすべての分野での発展がもたらされる。

 前述のとおり、日本の国土は70%が山地であるから、人力型外骨格の普及だけでも労働の分野でも大きな変化をもたらすことができる。

 日本の自動車と建設機械、義肢という製品は、戦争における人の殺害に直接作用することなく関わることができる。

 また、武器ではないからこそ、終戦後も平時も継続して商品が流通し続けるため、日本の経済の発展にも寄与する。日本は「日本ならでは」の方法で国益につながる形で、世界への責任を果たしていくことができる。

筆者:照井資規
1995年HTB(北海道テレビ放送)にて報道番組制作に携わり、阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件、函館ハイジャック事件を現場取材の視点から見続ける。
同年陸上自衛隊に入隊、陸曹まで普通科隊員として対戦車戦闘に精通、師団指揮システム陸曹となり自衛隊内のネットワーク整備に関わる。幹部任官時に衛生科に職種変更。岩手駐屯地勤務時に衛生小隊長として発災直後から災害派遣に従事、救助活動、医療支援の指揮を執る。陸上自衛隊富士学校普通科部と衛生学校の両方で研究員を務めた唯一の幹部であるため、現代戦闘と戦傷病医療に精通する。2015年退官後、一般社団法人アジア事態対処医療協議会(TACMEDA:タックメダ)を立ちあげ、医療従事者にはテロ対策・有事医療・集団災害医学について教育、自衛官や警察官には世界最新の戦闘外傷救護・技術を伝えている。一般人向けには心肺停止から致命的大出血までを含めた総合的救命教育を提供し、高齢者の救命教育にも力を入れている。教育活動は国内のみならず世界中に及ぶ。

本稿は「「壊れない」だけじゃない!! 世界の紛争地で日本車と日本製品が活躍する理由」の続編となります

【画像ギャラリー】圧倒的に足りていない「義肢」を日本の技術でまかなうことが…できる…かもしれない!???(10枚)画像ギャラリー

新車不足で人気沸騰! 欲しい車を中古車でさがす ≫

最新号

マツダ6、実は水面下で開発が続いていた!? 注目新車情報、グッズが当たるアンケートも展開「ベストカー4月26日号」

マツダ6、実は水面下で開発が続いていた!? 注目新車情報、グッズが当たるアンケートも展開「ベストカー4月26日号」

終売が報じられたマツダ6はこのまま終わるのか? 否!! 次期型は和製BMW3シリーズといえるような魅力度を増して帰ってくる!? 注目情報マシマシなベストカー4月26日号、発売中!