世の中には「珍車」と呼ばれるクルマがある。名車と呼ばれてもおかしくない強烈な個性を持っていたものの、あまりにも個性がブッ飛びすぎていたがゆえに、「珍」に分類されることになったクルマだ。
そんなクルマたちを温故知新してみようじゃないか。ベテラン自動車評論家の清水草一が、往時の体験を振り返りながら、その魅力を語る尽くす当連載。今回は、乗る人を選ぶ「じゃじゃ馬」と呼ぶにふさわしいモデルを4台ピックアップしてみた!
文/清水草一
写真/マツダ、ステランティスジャパン、スズキ、フェラーリ
■スピン上等!? あの名馬たちも今や風前の灯
かつて「じゃじゃ馬」と呼ばれるジャンルがあった。シャシーがエンジンに負けているクルマのことだ。ヘタにアクセルを踏むと、どこにスッ飛ぶかわからない感覚を持つクルマ、とでも言おうか。たとえばマツダのミッドシップ軽・AZ-1や、トヨタ 2代目MR2(SW20)の初期型、マツダ 3代目RX-7(FD3S)の初期型などが、その典型だ。
フェラーリにはこのテのクルマが多い。フェラーリ348の初期型は「真っすぐすら走らない臨死体験マシン」だったし、360モデナも、空力の欠陥によって高速域でリアがリフトし、非常に怖かった。究極はフェラーリF40だ。普通に走っていれば何も危険を感じないが、限界域でのコーナリング中は、アクセル1mmの操作でスピンが始まる気配ビンビンになる。
しかし、現行モデルのなかには、もはや「じゃじゃ馬」と呼べるモデルはほとんどない。さまざまな姿勢制御技術の進歩などにより、現行モデルはおろか、21世紀以降、「じゃじゃ馬」はほぼ消滅した。そんな「じゃじゃ馬」受難のご時世ゆえに、「じゃじゃ馬」は実に貴重。それは文字通りの「珍車」だが、貴重であるがゆえに「名車」でもある。
今回は、21世紀のじゃじゃ馬珍名車を4台選抜してみよう。
■カーマニアの記憶に残る隠れ「じゃじゃ馬」とは?
●マツダ マツダスピードアクセラ(2009年発売)
マツダスピードアクセラは、トラクションコントロールや姿勢制御装置はしっかりついているが、それをOFFにしなくても、そのままで「じゃじゃ馬」を満喫できた。
パワーは264ps、トルクは38.7kgm。それを前輪2輪で路面に伝える。低いギアでフルパワーをかけると強烈なトルクステアが発生し、クルマはフロントを浮かせつつ、トラクションコントロールのスキを突いてジャリッと進路を乱す。
別に危険ではない。クルマの進路は、実際にはほとんど乱れない。しかし、唐突に湧きあがるターンボのトルクと、ステアリングのとられ感で、ビリビリと危険を感じる。それが面白くて仕方ない。
FFだけに、パワーオンでおケツが流れるなどありえないし、まったくもってリスクはないのだが、「じゃじゃ馬」”感“だけはしっかり感じられる、ある意味おトクな「じゃじゃ馬」だった。
●アルファロメオ 4C(2014年発売)
4Cは、アルファロメオのスポーツカー大復活ののろしであると期待されたが、その期待に応えることなく、2020年、静かに生産を終了した。
4Cの何がいけなかったのか? それについては諸説あるが、アルファロメオとしては、あまりにもレーシングカー的でストイックすぎたことが、最大の原因ではないだろうか。そして付け加えれば、4Cが「ものすごく怖いクルマ」だったことも、関係があるだろう。
エンジンは4気筒の1744ccターボ。パワーは240psとそこそこだが、サウンドとレスポンスは凄まじかった。車両重量は1t強。アクセルを全開にすれば野蛮そのもので、軽いホイールスピンをブチかましながら「グオオオオオオオオオ~~~~!」と吠えまくって加速する。どっかにすっ飛んで行っちゃいそうな加速という表現がピッタリだった。
と言っても、低速コーナーでの挙動は安定していた。フルブレーキングからターンイン、そこからアクセルを踏み込んで行っても、フロントが逃げるだけで、リアは常に安定していた。ミドシップ車として順当なステア特性だ。
が、高速コーナーではすべてが一変すると言うより、速度がある程度上がるだけで、直線でも急激に不安感が増していく。ステアリングインフォメーションがどんどん希薄になり、ハンドルを切っても全然曲がる気がしない。アンダー→オーバーのリバースステアで、その場でクルクル回ってしまうのではないかという恐怖で一杯になる。高速道路を普通に巡行していても! つまり、高速コーナーなんて、怖くて攻められるはずがない! それはたぶん自殺行為!
原因は、あくまで推測だが、空力的な欠陥による、リアのリフトだろう。つまり930時代のポルシェ911や、フェラーリ360モデナと同じだ。レーシングカーに近い超本格派スポーツカーなのに、この操縦性は勘弁してくれ! 「じゃじゃ馬」を心から愛する私ですら、恐ろしさのあまり萎えました。土下座。
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