2022年1月にベストカーwebで報じて注目を集めた、長野市にある自動車販売店「デュナミス・レーシング」による大規模納車トラブル。数億円の入金済み注文を放ったまま社長が逃亡した事件だ。
今もなお、社長の行方はわかっていないが、このデュナミス・レーシングに対して、20日間の事業停止命令が出されたという。なぜ、すでに営業を停止しているこのタイミングで処分を出したのか? また、警察は今何をしているのか? 発覚から7ヵ月以上が経過した事件の現状をお伝えする。
文/加藤久美子
写真/被害者提供
■巨額詐欺事件の舞台となった『デュナミス・レーシング』とは?
2022年1月21日にベストカーwebで報じた「デュナミス・レーシング」の事件は発覚から7ヵ月が経過した。
ご存じない方に簡単に説明すると、長野市にある自動車販売店の経営者(O社長)が新車購入のための費用(現金一括購入)を客に振り込ませておきながらディーラーには発注すらせず、失踪した事件である。「本来は長野トヨタ、新潟ヤナセ、東京スバルなどの新車ディーラーに入金するべき、客から預かった現金をディーラーに渡さず他で運用」したので、当然、いつまでたっても納車などされない。
被害者は100名を超えるとされ、その多くは泣き寝入り状態となっている。事件が発覚したのは2022年1月上旬。2021年12月末にそれまで毎日のようにあったO社長によるLINE経由の営業メッセージが途絶えた。納車を待たせている複数の客が不審に思って長野市内の店舗を訪ねたところ…店内はもぬけのカラで渦中のO社長はそれ以降、行方が分からなくなっている。
筆者は1月6日に別の自動車購入に関わる詐欺事件で情報提供を頂いた方から連絡を受けてこのことを知った。ベストカーwebを含むいくつかのメディアにデュナミス・レーシングについて寄稿し、その後長野朝日放送、信越放送、信濃毎日新聞などの地元メディアがこぞってこの事件を報道し始めた。
なお、カン違いされる方も多いのだが、この事件で対象となるのは99%が新車ディーラーを通して販売される「新車」である。記事に対するコメントなどには、
「こんないい加減な店でクルマを見もせず買う方が悪い」
「現金一括で怪しい店から買うなんてありえない。自業自得」
「中古車を確認もせず、契約して現金一括を入金するなんて、だまされる方が悪い」
これらはすべて、事情を理解していない人が、「良く調べもせず怪しい店から怪しい車を契約したほうが悪い」など、中途半端な理解と思いこみで書いているコメントといっていいだろう。ヤフコメなどを通じて被害者を傷つけることはどうかやめていただきたい。
問題となっている「納車されないクルマ」とは、中古車ではなくディーラーを通じて販売される新車である。そして、多くの被害者がデュナミス・レーシングのO社長とは数十年にわたる付き合いがあり、これまで何回もO社長から新車を購入してきた人が大半だ。
O社長はデュナミス・レーシングを立ち上げる以前、今から30年ほど前には神奈川県と長野県の日産ディーラーに営業マンとして勤めており、今回の被害者の中には日産時代からのお客さんもいる。
それほどまでに長い期間、特に問題なく新車を購入してきたのに今回のクルマ購入で「現金を全額おさめたのに納車されない!」という事態になってしまった。
長い人では現金をO社長の口座に入金して2年以上待たされている人もいる。筆者は100名以上とされる被害者のうち50名以上に話を伺い、様々な情報提供を受けてきた。なかには新車購入以外にもO社長と長い付き合いで数十万円~数百万円のお金を貸したけど返ってこない、という人も複数存在する。
絶対に手を付けてはいけないお金にO社長が手を付けようとしていたところを、見るに見かねてお金を貸した人もいる。「それだけはやめてくれ」と、数百万円を貸したそうだが、もちろんそれらが返ってくることはなかった。
■なぜ今、このタイミングで「20日間の事業停止」意味あるのか?
事件が発覚してから7ヵ月以上が経過した今もなお、客から新車購入のためのお金を預かった社長の行方はわかっていない。今年2、3月ごろまではスーパーで買い物をしているところや、女性と一緒にクルマで帰宅したところを偶然報道関係者が目撃した事例もあったが、ここ数ヵ月は全くと言っていいほど情報が出ていない。
なお、この間にデュナミス・レーシングに対して、前払いした軽自動車の代金(150万円)の返還訴訟や店舗や工場の明け渡しと未払い賃料の支払い(計231万円)などについて訴訟が行われ、いずれも支払い命令がだされているが、経営者であるO社長は一度も出廷していない。
8月のお盆明けにはついに、建物の解体も始まった。そして8月23日には北陸信越運輸局からデュナミス・レーシングに対して20日間の事業停止命令が出された。
デュナミス・レーシングは整備事業者として北陸信越運輸局から「認証工場」の承認を得ている。認証工場(自動車特定整備事業)とは一定の規模の作業場と作業機械、分解整備及び電子制御装置点検整備に従事する従業員を有する工場に対し、事業者からの申請によって地方運輸局長が自動車特定整備事業の認証を行うもの。
認証工場の承認を得ると、車検のための点検整備や、特定整備を行うことができるようになるが、車検そのものは工場内でできないため多くは運輸支局に持ち込んで車検を通すことになる。
「認証工場」には2名以上が必要でそのうち最低でも1名は1級または2級の自動車整備士技能検定に合格している整備主任者を登録しなくてはならない。そして事業者は整備主任者に対して年に1回の研修(法令研修+技術研修)を受けさせる義務がある。
8月23日に北陸信越運輸局から出された事業停止命令は、この「整備主任者研修」を受けさせなかったことが道路運送車両法に違反しているとして、出されたものである。
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1.処分年月日 令和4年8月23日
2.事業者名(住所) 有限会社デュナミス・レーシング(長野県長野市)
3.処分対象事業場名(所在地) 有限会社デュナミス・レーシング(長野県長野市)
4.行政処分の内容 自動車特定整備事業の事業停止 20日間(注1)
(令和4年8月23日から令和4年9月11日まで)
(注1)当該事業場は20日間にわたる自動車特定整備事業の事業停止となり、この期間、特定整備に係る作業ができなくなります。
5.違反条項
① 道路運送車両法第91条の3
(道路運送車両法施行規則第62条の2の2第1項第8号)
② 道路運送車両法第100条第2項
6.違反事実の概要
①当該事業場に選任された整備主任者に対して事業者は令和3年度の整備主任者研修を受講させなかった。
②当該事業者は長野運輸支局における立入検査(監査)を正当な理由なく忌避した。
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なぜ、北陸信越運輸局はすでに営業を停止し、店舗や工場の解体まで始まっているデュナミス・レーシングに対して「20日間の営業停止」という処分を出したのか?
北陸信越運輸局の北陸信越運輸局自動車技術安全部 整備・保安課に聞いてみた。
「うちの方としましても、ずっと事業者に対して何とか事情を聞くべく接触をはかってきたのですがまったく対応いただけておらず、連絡もとれていません。認証工場の整備主任者に対して令和3年度の講習を受けさせていなかったことは確実で、現在のところ確実に違反が確認できたところから、行政処分を行うことにしました」
このような返事であった。つまり、他にもいろいろあるけどもひとまず、違反が確実な部分から処分を行っている状況なのだろう。
コメント
コメントの使い方社長、逮捕されましたね。
ただ、詐欺はしていないと容疑否認してるみたいですが。
解体費用はどこから出てきたんでしょう?
新車をディーラー以外で買うのがやばいって。的はずれじゃなくて全うな批判でしょ。