スバルの「シンメトリカルAWD」
スバルの「シンメトリカルAWD」には、クルマの特性に応じて、いくつかの制御システムがある。最もベーシックなのが「X-MODE」と「アクティブトルクスプリットAWD」だ。
X-MODEは、常時ONにしておけば、例えば雪道や悪路でタイヤがスリップした瞬間にセンサーが検知し、エンジン、モーター、トランスミッション、VDCなどを制御し、4輪の駆動力やブレーキなどを適切に制御してスムーズな脱出を補助する。アクティブトルクスプリットAWDは、前60:後40のトルク配分を基本とし、走行状況に応じてリアルタイムに前後輪のトルク配分をコントロールする。前輪がスリップしたら、後輪側へトルクを配分して脱出する。いわば、安定性を重視したAWDシステムだ。
そして、レヴォーグの上級グレード(2.4Lターボ)やWRX S4に搭載されるのが、「VTD-AWD(不等&可変トルク配分電子制御AWD)」だ。センターデフによってトルクを前45:後55に不等配分する。アクセルオンで、後輪へ大きなトルクを分配することで、コーナーイン側に向かってクルマの向きを変えながら加速する、いわば、「曲げるAWD制御」だ。走行状況に応じてトルク配分を連続可変するので、直進時のふらつきも抑制ができ、安定した直進性となる。
さらにWRX STI(MT車)といった本格スポーツ走行向けには、「DCCD(ドライバーズ・コントロール・センターデフ)方式AWD」というスペシャルなAWD制御がある(WRX STI 6MTは2019年12月に廃止となった)。センターデフの前後配分は前41:後59を基本に不等配分、レスポンスに優れたトルク感応機械式LSDと、電子制御LSDを組み合わせ、高い安定性を保ちながら、ドライバーの思いどおりの旋回ができる。
日産「e-4ORCE」
ここまでは、後輪へと動力を伝えるプロペラシャフトがあるものだったが、e-4ORCEは電気信号によって後輪を駆動するため、プロペラシャフトが必要ない。現時点では、バッテリーEVのアリアe-4ORCEと、エクストレイルe-POWER e-4ORCEのみに搭載だが、今後は日産の上級AWDモデルにはすべて採用されていくだろう(コンパクトカーにはe-POWER 4WDを採用)。
e-4ORCEは、4つのタイヤが駆動する力を変えて、ドライバーの意図通りにクルマの向きを変えたり(変えなかったり)、車体のピッチングを抑えて乗り心地をよくする制御技術。前後モーターと左右ブレーキで各輪の駆動トルクを緻密に制御することで、旋回時のヨーモーメントを自在にコントロールし、さらには、上屋のボディモーションをコントロールしている。
e-4ORCE最大の特徴は、リアモーターの絶対出力が大きいことだ。もちろん、他メーカー車でもリアモーターへのトルク配分によって、悪路でのトラクションやコーナリング性能向上を行っているモデルはあり、実際そうした電制4WD車は、滑りやすい路面では抜群の安定感を誇るが、エクストレイルe-4ORCEほど、リアモーターの絶対出力(最大トルク195Nm)を大きくしているモデルはない。例えば、RAV4ハイブリッドのE-Fourのリアモーターは、エクストレイルe-4ORCEの半分以下だ。
・エクストレイルe-4ORCE FRモーター(150kW/330Nm)、RRモーター(100kW/195Nm)
・アウトランダーPHEV FRモーター(85kW/255Nm)、RRモーター(100kW/195Nm)
・RAV4 HYBRID 駆動力 FRモーター(88kW/202Nm)、RRモーター(40kW/121Nm)
・(参考)アリアB9 e-4ORCE 最高出力290kW、最大トルク600Nm ※前後配分は未公表
エクストレイルのe-4ORCEは前後トルク配分を、0:100から100:0まで可変が可能。例えば、上り坂のコーナーでリアに荷重が乗っている場合、リア側を主体に駆動することで、すばやい加速ができる。また、下り坂のコーナーでも、フロント側はクルマの向きを変えることに特化して、リア側主体でトラクションをかけることで、狙い通りにライントレースができる。これらはまさに、FR車のコーナリングのメリットだ。古い言葉で、「アクセルは第2のステアリング」というが、後輪駆動つくりが得意な日産らしく、電動化時代に合わせた良いアイテムを開発できたといえる。
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