2022年7月20日、ようやく日本デビューとなった、日産「エクストレイル」の新モデル(4代目・T33型)。全車にVCターボe-POWERを採用し、4WDにはアリアにも搭載された「e-4ORCE」を採用。オフロードのトラクション向上、オンロードのハンドリング向上、そして乗り心地改善まで、自在にコントロールを行うe-4ORCEは、駆動力制御を得意としてきた、日産渾身のアイテムだ。
e-4ORCEについては、テレビCMで俳優の木村拓哉さんが「やばいですね」「これやりすぎじゃないですか」と絶賛されていたが、本当の本気で「やばい」のだろうか。試乗会の際の、開発に携わったエンジニアの話を交えつつご紹介しよう。
文:吉川賢一
写真:NISSAN、ベストカーWEB編集部/撮影:池之平昌信
e-4ORCEは日産の英知の集まり
e-4ORCE採用第1号車となったアリアは、都会派クロスオーバーSUVというキャラクターもあり、(e-4ORCEの役割は)雪道や濡れた路面での性能向上、オンロードのハンドリング性能向上といったところだったが、本来e-4ORCEは、4輪に理想的な駆動力配分を行うことで、オンロードからオフロードまで、オールラウンドで走破性を高めることが狙いであり、今作のエクストレイルにこそドンピシャ当てはまる技術だ、と、日産第二製品開発部第三プロジェクト統括グループ車両開発主管の中村将一 チーフビークルエンジニア(CVE)氏はいう。
日本では、雪の多い地域以外ではそれほど必要とされない4WDだが、海外では未舗装のデコボコ道を走らなければならないことも多く、周囲に人の少ない道でスタックなどしてしまったら、大変なことになる(犯罪の多い地域だと超危険)。そのため、高い走破力は、昔から需要があったそうだ。
エクストレイルは、北米、中国、ヨーロッパ、アジア、そして日本と、世界中で販売されている。北米や中国などでは、すでに新型が登場してはいるものの、e-POWERとe-4ORCEを搭載した新型エクストレイルは、世界に先駆けて、日本市場からの投入だ。先代T32では、販売の8割が4WDだったというエクストレイルにおいて、このe-4ORCEを搭載したT33エクストレイルこそが、真の「新型エクストレイル」であり、同時に、決して失敗が許されないモデルでもある。それだけに、日産のこだわりようも半端なく、日産の英知が込められた自信作のようだ。
車両演算モデルが演算した「理想の挙動」との差分を埋める制御
「e-4ORCE」は、簡単にいうと、4つのタイヤが駆動する力を変えることで、ドライバーの意図通りにクルマの向きを変えたり(変えなかったり)、車体のピッチングを抑えて乗り心地をよくする制御技術のこと。前後モーターと左右ブレーキで各輪の駆動トルクを緻密に制御することで、旋回時のヨーモーメントを自在にコントロールし、上屋のボディモーションをコントロールしている。
そのカラクリは結構、複雑。パワートレインEV技術開発本部エキスパートリーダー・企画先行技術開発本部技術企画部担当部長 平工良三氏によると、車両挙動や車速情報、ドライバーのペダル入力などを元に、駆動力配分の指令を出す車載コンピューターのなかで、前後左右の加重移動も演算できる、本格的なフルヴィークルモデルに近い車両演算モデルが、「ありたい車両挙動(ヨーレイトや横G)」を瞬時に演算。実際の車両挙動と比べながら、その差分を埋めるよう、前後モーターへの制御信号を出し、挙動を作り出すという。
もちろん、エクストレイル用に、ホイールベースや重心、サスペンション特性など、車両演算モデルのパラメーターを変えた専用チューニングを行っている。
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