■質感の低下とコンパクトカーの増加で低迷の一途へ
売れ行きがここまで下がった背景には、先に挙げた造りの粗さがある。現行マーチはタイ製の輸入車になったが、粗さの原因は生産国の事情より、コストを安く抑えた本質的なクルマ造りにあった。
また現行マーチは2010年に発売されたが、日産は2004年にコンパクトカーの上級車種としてティーダを投入しており、1か月に約5000台を安定して登録していた。2005年には実用的で価格が割安な初代ノートも加えている。
さらに全高が1600mmを超えるボディに広い室内を備えたキューブも、1998年に初代モデルを投入して、2002年に2代目、2008年には3代目となった。
このように日産のコンパクトカーが車種を増やす一方で、現行マーチは質感を低下させ、燃費数値が伸び悩んだり衝突被害軽減ブレーキも装着時期も遅れた。マーチには悪条件が重なり、売れ行きを大幅に下げた。
それでもマーチには、低価格という特徴があるが、日産は2013年に三菱と共同開発した軽自動車の初代デイズを発売している。2019年には2代目になった。
全高が1700mmを超えるスライドドアを備えた軽自動車のデイズルークスも、2014年に発売されて2020年には現行ルークスに切り替わった。マーチは日産のコンパクトカーと、堅調に売られる同社の軽自動車に挟まれて、ユーザーを奪われた。
マーチがこのような状態になって1か月の登録台数が1000台以下まで落ち込むと、設定を続ける価値も薄れる。この点を日産の販売店に尋ねると、以下のように返答された。
「今のコンパクトカーの主力は、ノートとノートオーラだ。ただしe-POWER専用車で価格が200万円を超えるから、低価格車を求めるお客様には、デイズとルークスを推奨している。軽自動車なのに衝突被害軽減ブレーキは2台先を走る車両も検知して、運転支援機能のプロパイロットも装着できる。
マーチに比べると先進装備が大幅に充実しており、後席を含めて車内も広い。低価格車を求めるお客様には、今ならマーチよりもデイズかルークスが適している」。
こうなるとマーチを販売していることが不思議に思える。コンパクトカーではノートシリーズが売れ筋で、以前のマーチの顧客は、軽自動車で補えるからだ。マーチの1か月の登録台数が800台程度では効率も悪いだろう。この点も販売店に尋ねた。
「マーチは生産を終える。そのためにメーカーへの発注も既に終了した。在庫車をそろえたから、10月頃までは販売できるが、好みの仕様が見つからないと新規発注はできない。フルモデルチェンジや大幅な改良を行う話は聞いていない」。
今の日産の戦略は効率優先だ。日本で扱う車種は大幅に減らして、1車種当たりの売れ行きを増やす。そのためにノートは、国内向けに開発され、パワーユニットはe-POWERに絞り込んだ。
その代わり、ベーシックなノートに加えて、上級のノートオーラ、SUV感覚のノートオーテッククロスオーバー、スポーツ指向のノートオーラNISMOという具合に選択肢を充実させた。開発投資を抑えながら、幅広いニーズに対応して、売れ行きを効率良く増やす戦略だ。
今後の日産車のニーズは、ガソリンエンジン車ではノートシリーズ、セレナ、エクストレイル、軽自動車のデイズとルークスに集約される。そのためにマーチ以外にも、スカイラインのハイブリッド搭載車、フーガ、シーマの廃止が決まり、ティアナ、シルフィ、ラティオなどのセダンは既に国内販売を終えた。
いわゆる選択と集中で、売れない車種にはコストを費やさない。今までの販売で開発費用などを償却できている場合は、売れ行きが下がって車種の存続が不利になった時点で終了する。
ほかの日産車では、現行エルグランドも、乗用車なのに発売から10年以上を経過した。今後フルモデルチェンジを行っても、従来型からの乗り替え需要は期待しにくく、マーチのように終了する可能性が高い。
コメント
コメントの使い方そろそろエボって下さい!買いますよ