■アルファードが促した各社の開発競争
初代アルファードの発表日は2002年5月22日で、宿敵となるエルグランドが2代目にフルモデルチェンジされた翌日だった。あからさまな宣戦布告で、報道発表会には、CMに起用した俳優のジャン・レノまで招待して話題性を盛り上げた。
一方、2代目エルグランドは、シャシーを初代から流用した後輪駆動車だ。当時の日産は、経営再建に乗り出した直後で、多額の開発コストを費やせない。前輪駆動に変わって低床化された初代アルファードに比べると床が大幅に高く、運転感覚も旧態依然としていた。
加えて2代目エルグランドはフロントマスクのデザインも不評で、内装の質もいま一歩だった。好調に販売された初代からの乗り替え需要があるハズなのに、売れゆきは伸び悩んだ。
発売の翌年とされる2003年に、初代アルファードは1カ月平均で約7000台を登録したが、2代目エルグランドは半分以下の約3000台だった。
ちなみに当時のトヨタの開発者は、ライバル車との販売優劣を前述のとおり、「勝ち負け」で表現することが多かった。そしてエルグランドと同様、販売が好調だったホンダのオデッセイ/ストリーム/フィットなども、トヨタは徹底的にマークしてライバル車の「刺客」を送り込んだ。
この冷徹なトヨタの戦略が、当時は不愉快に感じたが、今にして思えばトヨタが国内市場を大切にする証でもあった。そして睨みを利かせるトヨタの商品開発は、ほかのメーカーや販売会社に緊張感を与え、優れたクルマ作りを促した。
低床設計を始めとするホンダのミニバン開発力は、トヨタによって鍛えられたといっても大げさではない。軽自動車のN-BOXにも、この時に培った技術が生かされている。
■続くアルファードの快進撃
それなのに最近のトヨタはどうか。最終型のヴィッツなど、商品力ではフィットやマツダ2(以前のデミオ)と比べて明らかに劣っていた。ダイハツ製ではあるが、今のルーミーやパッソも上質な商品ではない。
クラウンは、セダンでは売れゆきが伸び悩み、伝統の車名を残すためにSUVに発展させる奇策を講じた。新型は海外でも販売して「クラウン」の車名を将来に伝える。
このようにトヨタのクルマ作りが乱れるなかで、20年に渡って安定した魅力を保つのがアルファードだ。一時期は姉妹車のヴェルファイアを設定して人気を高めたが、フロントマスクのデザイン変更などによって再びアルファードの売れゆきが上回った。
特に2020年5月以降は、トヨタの全店が全車を販売する体制に変わり、姉妹車を用意する必要性も薄れたから、2023年に登場する次期型ではヴェルファイアを廃止する。
そしてヴェルファイアの需要まで吸収した事情もあり、アルファードの販売は絶好調だ。特にトヨタの全店が全車を売る体制になってからは、従来のトヨペット店に加えて、トヨタ店、カローラ店、さらに以前はヴェルファイアを専門に扱っていたネッツ店でも、アルファードが大量に売られ始めた。
2020年はコロナ禍に見舞われたが、アルファードの登録台数は、コロナ禍前の2019年に比べて32%増加している。1カ月平均は約7600台で、2年前のフィットと同等だ。
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