■トヨタを代表する車種へ
その一方、2020年のクラウンは、登録台数を2019年に比べて40%近く減少させた。クラウンを扱っていたトヨタ店からは、以下のような話が聞かれた。
「以前からクラウンのお客様がアルファードに乗り替えるパターンがあった。アルファードは内外装が豪華で快適だから、法人が重役を乗せる社用車として購入する場合もあり、クラウンの需要を奪った。
しかも今はトヨタ店でもアルファードを買えるから、販売店を変更する必要もなく、クラウンからの乗り替えがさらに進んだ」
このように今のアルファードは、クラウンの需要も吸収している。ミニバンの普及とイメージアップにより、今のアルファードが以前のクラウンになったと考えれば、好調な売れ行きも納得できる。そうなればクラウンの役割は終わったともいえるだろう。
同様に以前のマークII(廃止時はマークX)の需要はハリアー、コロナ(同プレミオ)やカリーナ(同アリオン)のニーズはノア&ヴォクシーなどが継承して、マークII/コロナ/カリーナは廃止された。この流れに反して、クラウンだけは残そうと考えたから、SUVに発展させる必要も生じたわけだ。
■「売れるクルマ作り」を体現するアルファード
ちなみに現行アルファードはプラットフォームを刷新したから、床を大幅に低く抑えることもできた。低床設計にすれば重心も下がり、乗降性に加えて走行安定性や乗り心地も向上させやすい。床の高さに合わせて天井も下げれば、車両重量が軽くなって空気抵抗も減るから、動力性能や燃費でも有利になる。
ところが現行アルファードは、これらのメリットをすべて捨てて、床と天井を先代型と同様に高く保った。背の高い立派な外観、上下幅の厚い存在感の強いフロントマスク、乗員が周囲を見降ろせる乗車感覚を大切にしたからだ。
機能性や実用性よりも、情緒的な価値を優先させて、好調な売れゆきに至った。「いいクルマ作りではなく、売れるクルマ作り」がトヨタの伝統で、それを今に伝える車種がアルファードだ。
そのためにアルファードは、かつての狙いどおり、ライバル車のエルグランドやオデッセイの需要を奪った。販売の低迷もあってオデッセイは生産が終わり、販売店では「次期型を導入する予定はない」という。
エルグランドも発売から12年を経過したから、フルモデルチェンジを行わず現行型で終わる可能性が高い。販売店では「納期の遅延もあり、選べるグレードやボディカラーなど仕様がかぎられている」という。
■トヨタの頂点から日本車の頂点へ
このようにアルファードは、ライバル車を駆逐して、身内とされるクラウンの需要まで奪った。「ライバル車に絶対負けない日本向けの売れるクルマ作り」を実践したことが、アルファードの魅力であり、トヨタの商品開発の本質だ。
昭和のトヨタの主役はクラウンだったが、平成になってプリウスに移り、令和はアルファードになった。アルファードだけは、次期型もトヨタの求心力として「ライバル車に絶対負けない日本向けの売れるクルマ作り」を踏襲すべきだ。
アルファードはミニバンのキングというより、日本車の頂点に立つ存在であり続けるだろう。
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