正面から見てフロントガラスの右下に小窓が取り付けられた路線バス車両をよく見かける。あの小窓は何のためにあるのだろうか?
文・写真:中山修一
なんと固有の名前が付いていた!
路線バス車両の前に付いている小窓にはパーツとしての名前があり、通称「セーフティウィンドウ」や「視野拡大窓」と呼ばれている。その名の通り、運転時の安全性を高めるためのパーツだ。
右ハンドルのクルマは得てして、運転していると進行方向左前の車体周辺の様子を比較的掴みづらい。背が高いバスの場合はさらに左側の下寄りにその傾向が出る。
セーフティウィンドウは、ちょうど死角になりがちな目線の先をシースルー化させることで、安全確認を容易に行えるようにし、巻き込みや接触事故が起こるリスクを低下させる役割を持っている。
本来の目的ではないものの、セーフティウィンドウが付くと正面が左右非対称のデザインになり、メリハリが効いてちょっと格好良くなる副産物的効果をもたらしたりもする。
昭和の終盤に花開いたセーフティウィンドウ
セーフティウィンドウの発想自体はかなり古くからあり、1960年代には既に存在していたようだ。ただし初期の頃は特注扱いで、ごく一部の地域の路線バスで使われるに留まっていた。
特に早い時期からセーフティウィンドウを積極的に取り入れたのは京都市交通局で、1980年以降に導入された車両には基本的に取り付けられるようになった。
あくまで特注またはオプション装備であったセーフティウィンドウも、1980年代半ばに差し掛かると標準装備にするメーカーが出始めた。
中でも、三菱ふそうがセーフティウィンドウへのこだわりが強く、現在ではすっかり三菱ふそう製路線車の「顔」の一部になっているほどだ。
今も同社におけるセーフティウィンドウの立ち位置は変わらず、現行の三菱ふそうエアロスターにも標準装備されている。
付いていないバスも結構走っているけれど……
街中を走る路線バスをよくよく眺めると、セーフティウィンドウのない車両も結構多い。現行車種では、いすゞ製路線車のエルガにはセーフティウィンドウが設定されていない。
日野自動車のブルーリボンでは過去にセーフティウィンドウを標準装備していた時期があったが、いすゞエルガと共通設計になった以降のモデルでは廃止されている。
特注すれば取り付けることは可能で、セーフティウィンドウ付きのいすゞ車を運行する事業者もなくはない。全国規模で見るとかなりレアなので見たら幸せになれるかも……。
また、セーフティウィンドウを取り付ける対象の殆どが大型路線車であり、中型・小型路線車に装備させている実例はあまり聞かない。
では、安全性向上が期待できるパーツを除外しても構わないのだろうか? さすがにセーフティウィンドウもそこまで万能ではなく、「あると便利だけど無くても大丈夫」くらいの存在というわけだ。
最終的にセーフティウィンドウの有無を決めるのは、バスを導入する事業者だ。バスのメーカーに関係なく特注してまで窓を取り付ける事業者もあれば、窓なしを好む事業者もある。
ユニークなところでは、セーフティウィンドウの取付位置を埋めて、運賃支払い方法の表示器に置き換えている神奈川中央交通(新しいエアロスターはそうでもない)のようなパターンも見られる。
バス趣味的には事業者ごとの車両の特徴を知る目安としても活用できるセーフティウィンドウ。バス車体の中でも注目すべきポイントだ。
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