■新型は5代目にしてコンセプトを変更
プリウスが燃費スペシャルから脱却した背景には、複数の事情がある。最も大きな理由は、プリウスのコンセプトが新型になって変わったことだ。
従来のプリウスは「ハイブリッド専用車」という位置付けに特徴があり、販売も好調だった。それが今は、ヤリスからセンチュリーまで大半のトヨタ車にハイブリッドが搭載され、プリウスの売れ行きは下がっていた。
登録台数を具体的に見ると、2009年に発売された3代目プリウスは、2010年に1か月平均で約2万6000台を登録している。これに比べて先代型の4代目は、2015年に発売され、2016年の1か月平均は約2万台に留まった。2019年は、コロナ禍の前だったが、1か月平均は約1万台だ。モデル末期の2021年は、約4000台と下降を続けた。
プリウスの特徴が、ハイブリッド専用車の位置付けと低燃費にあったとすれば、その使命は終わったといえるだろう。前述のように今では大半のトヨタ車にハイブリッドが用意され、ヤリスハイブリッドXのWLTCモード燃費は36km/Lに達するからだ。
プリウスは全長が4600mmの3ナンバー車で、車両重量は、最も軽い1.8LのXでも1350kgだ。ヤリスハイブリッドXなら、全長が3940mmの5ナンバー車でエンジン排気量も1.5Lに収まり、車両重量は1050kgと軽い。
仮にプリウスのWLTCモード燃費が、一時的にヤリスハイブリッドを上まわっても、次期型ではヤリスハイブリッドに必ず抜き返される。プリウスが燃費ナンバーワンを守るのは難しい。
以上のような事情から、プリウスをなくす方法もあったが、その認知度は世界的に高く廃止するのは惜しい。
■スポーティな外観とシステム最高出力の向上
そこで新型プリウスは、燃費スペシャル的な発想から離れたわけだ。全高を先代型に比べて40~50mm低く抑え、前後のウインドーを大きく寝かせた。
エンジンとモーターの駆動力を合計したシステム最高出力は、先代型は122馬力だったが、新型は1.8Lが140馬力、2Lは193馬力に達する。充電可能なPHEVは223馬力だ。パワーアップに伴って、外観もカッコ良く、運転感覚の楽しいクルマに進化した。
つまりハイブリッドの低燃費を含めた実用性は、カローラクロス、シエンタ、ノア&ヴォクシーなどのハイブリッド仕様に任せ、プリウスは趣味性の強いスポーツ指向の5ドアクーペに発展させている。
そして新型プリウスのような性格のハイブリッドは、トヨタには用意されていない。カローラスポーツ/ツーリング/クロスなどのハイブリッドは、新型プリウスに比べて実用的だ。クラウンクロスオーバーは趣味性の強いハイブリッドだが、ボディが大きく、なおかつ多くのユーザーはSUVと判断する。
例えば今でもマークXが存在していて、そこにハイブリッドを搭載すると新型プリウスに近いかも知れないが、既に終了している。かつてのカリーナED、あるいは今のメルセデスベンツCLAに相当する車種も用意されていない。
そのために新型プリウスは、トヨタのラインナップにおいて、燃費追求とは違うスペシャルティカーの価値も発揮できた。いい換えれば新型プリウスがコンセプトを変えたことにより、今まで穴の空いていたトヨタのラインナップが埋められている。
いろいろな意味で、新型プリウスには新しい価値が盛り込まれ、そこが燃費スペシャルから脱した一番の理由だ。
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