■様々な可能性を模索するインドの自動車業界
またオートエキスポ2023会場内に展示されているトラックなどの商用車をみると、FCEV(燃料電池車)や水素エンジン車も展示されていた。つまり受け売りで申し訳ないが、インド政府はBEV一辺倒ではなく“全部本気”でマルチな視野で自国の次世代の自動車のあり方というものを見つめているのである。
現状でもCNG(液化天然ガス)を燃料とする車両も多く、ライドシェア車両やオートリキシャ、路線バスではCNG仕様車がほとんどとなっている。
BEV普及では、補助金対象台数などを見ていると、二輪と三輪車をより優先的に電動化させようとしているように見える。
デリー市内を見ると四輪車の“カオス”的な渋滞が街の風物詩のように散発しているが、まだまだ自動車としての普及を見ると二輪車や三輪車のほうが多い(需要がまだまだ四輪車へシフトしていない)。
ある報告ではここのところの原油価格高騰が、ICE搭載車とBEVでの車両価格差が四輪車より少ない二輪車では、ランニングコスト軽減というアプローチで電動二輪車の販売に勢いがついているとされていた。
四輪新車販売で世界第三位となったインド。世界第一位の中国は人口でも世界一だが、これも間もなくインドが抜いて人口世界一になるともいわれている。
すでに高齢化そして人口減少が始まっているとされる中国に比べると、インドが新車販売でも世界一になるのはそう遠くないものになるのではないかと考えられる。
インド政府としてはそこまで見越して、いま真剣に車両電動化なども進めているのかもしれない。インド政府の動きは単にBEVなどを増やそうとしているわけではない。実に緻密に充電インフラの整備も進めており、そして前述したようにクルマではBEVのみに頼らずに環境負荷低減を進めようとしている。
EUは2035年以降ゼロミッション車以外の販売を禁止するとしているが、ウクライナ紛争もありこれの実現はかなり厳しくなったともされるが、そもそもかなり無理があると筆者は考える。
日本では「日本メーカーは技術力もあるし、後出しジャンケンでも十分対抗できる」との声も聞かれる。確かに開発力では問題ないのかもしれないが、日本メーカーのBEVが本格発売されるころには、中国や韓国メーカーがマーケットで中心的地位を確立しているとなれば状況が不利なことには変わらない。
さらにBYD以外ではインドにおいてICE搭載車も販売しているが、BEVをラインナップしていることでブランド全体に先進性というイメージが強まっているようだ。
ICEで中国メーカーはまだまだ日本車の足元にも及ばないが(韓国ヒョンデはマルチスズキについでインド国内販売シェア2位)、BEVをラインナップすることで存在感を見せるようになっていると筆者は考えている。
インドにおけるトヨタカローラクロスサイズといっていいクロスオーバーSUVタイプのBEVでは、中国・韓国系メーカーの販売価格の相場は3万アメリカドル前後(約390万円前後)となっている。
ちなみにタイにおける中国系メーカーのBEVの価格はBYD ATTO3(アット3)、MG ZS EVともに約460万円となっている。日本国内におけるBYD ATTO3の価格は440万円となる。
ATTO3とMG ZS EVはともにトヨタカローラクロスとほぼ同クラスになるので、日本車が国内で同クラスのBEVを発売する時には、やはり450万円前後の価格設定をしなければ競争力がダウンするものと考える。
だが、果たして同価格帯を日本メーカーで実現できるのかどうかは大いに疑問が残るところである。それはインド市場のみならず、世界各国の市場でも同様の心配が残るところである。
つまり価格競争力を維持でき、高性能な日本車らしいBEVというものの実現は難しいのではないかと考えている。
ICE(内燃エンジン)搭載車では日本車のほうがステータスが高いかもしれないが、BEVでは出遅れている部分もあるので、中国や韓国メーカーと“ひいき目”に見てもほぼ横並びといっていいだろう。
むしろ、すでに世界各国で積極的に中国・韓国メーカーは市販しているので、先進性などでは日本メーカーは遅れをとっているようにも見える。
“BEVがすべての解決策なのか”と議論する前に、“BEVビジネス”としてすでに出遅れている現状をどうするのかを最優先するべきだと筆者は考える(いまの世界の潮流を無視して独自の道を歩むのかも含めて)。
日本の家庭電化製品は、国内では大手家電量販店に、そして世界市場では韓国や台湾、中国メーカーに価格主導権を握られたことも、日本メーカーの弱体化を加速させた一助になったともいわれている。
“いざ鎌倉”として総力を決して、日本の各自動車メーカーがBEVのラインナップを充実させても、中国・韓国メーカーのBEVと日本のBEVは世界の各市場で対峙することになる(BEVでは“日本車”という優位性はないと考えたほうがいい)。
そのため、せっかくラインナップさせても、価格競争に巻き込まれ(値引き競争ではなく、単なる製造原価が日本メーカーのほうが高くなりがちという点を踏まえて)利益が十分とれないなか販売を続けてしまうことにもなりかねないかもしれない。
デリー市内をライドシェアで移動していると、まわりはスズキ車が圧倒的に多く、ほかにトヨタやホンダのクルマも多く目にする(いずれもICE搭載車)。ただ、中国・韓国メーカー車も急速に目立ってきている。
インドで販売されている中国・韓国車すべてがZEV(ゼロエミッション車)というわけではないが、BEVのラインナップが目立っているので、先進性を感じてICE搭載車販売も勢いが出ているように見えた。
失礼な話だが、まさかインドで“日本車大丈夫?”となるとは思っていなかったが、インドはBEV一辺倒でもないので、何か日本メーカー各社には秘策があることを信じてインドを後にした。
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