■セダンではなくクロスオーバーになった理由
問題は販売の回復だ。従来と同じセダンでは売れ行きが伸びず、結局は廃止される。そこでクラウンの高級路線を維持しつつ、カテゴリーをSUVに変更した。ミニバンは国内中心で、ワゴンやクーペはセダンと同じく販売が伸び悩む。クラウンをヤリスのようなコンパクトカーには変えられないから、必然的にSUVへ発展した。
それでも不安は残る。かつてのマークXは、3列シートのマークXジオを加えたが、結局は販売が落ち込んで廃止された。ボディが1種類では足りず、ヤリスやカローラのようにシリーズ化しないと安心できない。そこでクラウンを存続させるため、膨大な開発コストを費やして、複数のボディを用意した。
そこで設定されたのが、既に売られているクラウンクロスオーバーと、2023年3月時点では発売されていないクラウンスポーツ/エステート/セダンの3タイプだ。合計4タイプを用意すれば、販売が低迷しても、クラウンシリーズとしての登録台数を相応に確保できる。
4タイプの中でクラウンクロスオーバーを最初に発売した理由は、新旧クラウンの架け橋になるからだ。外観はSUV風だが、ボディタイプは前述の通り独立したトランクスペースを備えたセダンになる。いきなり純粋なSUVに変更すると、ユーザーは戸惑うが、セダンタイプのSUVであれば違和感を抑えられる。
その代わり架け橋だから、見方を変えると車両の性格が中途半端だ。SUVが欲しいユーザーには、トランクスペースの開口部が小さく、自転車のような大きな荷物を積みにくい。セダンとしては、人気の高いメルセデスベンツC/Eクラスのようなフォーマルな雰囲気が希薄だ。
クラウン(クロスオーバーのみ)の月販基準台数は、発売時点で3200台と公表したが、仮にコロナ禍の影響がなくても、この販売水準を安定的に達成するのは容易ではない。今までの登録台数を見ると、2023年に入って1月は4498台、2月は3581台まで増えたが、今後の動向が注目される。
■売れ筋の本命はエステート
そしてこれから発売されるクラウンシリーズの本命、最も推奨度の高い売れ筋タイプはエステートだ。全長は4930mm、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)は2850mmだからクロスオーバーと等しいが、全幅は1880mmと少しワイドだ。全高は1620mmだからクロスオーバーを80mm上まわる。
ボディは典型的なSUVスタイルで、3列目のシートも用意される。今のSUVには3列シート車が増えたが、トヨタブランドではランドクルーザーと同プラドのみだ。その点でクラウンエステートは、RAV4の野性味とハリアーの上質感を併せ持ち、3列目シートも備わるから、前輪駆動をベースにしたトヨタのシティ派SUVでは売れ筋の上級車種に位置付けられる。
その一方でエステートはクラウンシリーズの最量販タイプだから、2.5Lのノーマルエンジンや2WDなど、メカニズムがシンプルな買い得グレードを用意する可能性が高い。
クラウンクロスオーバーは、全車がハイブリッドと4WDを備えるから、最も安価なグレードでも435万円だが、クラウンエステートは300万円台の仕様も設定しそうだ。このようにクラウンは、エステートを中心に売れ行きを伸ばして「クラウンの復権」を宣言する。
このほかクラウンシリーズには、ボディの短いSUVのスポーツもあり、全長は4710mmだからクロスオーバーを220mm下まわる。ホイールベースも2770mmだから80mm短い。文字通り機敏な運転感覚を味わえるスポーティなSUVに仕上げる。
スポーツの推奨度は、エステートよりも低いが、外観にボリューム感があってクルマ好きには興味の沸くタイプだと思う。欧州のプレミアムブランドでいえば、メルセデスベンツGLCクーペ、BMW X4、ポルシェマカンのような性格を備える。
クラウンセダンは、シリーズで唯一、後輪駆動を採用する。エンジンを縦方向に搭載するから、前輪とフロントピラー(柱)の間が広がり、ボンネットも長い。従って全長は5030mm、ホイールベースも3000mmに達する。セダンは法人を始めとする従来型のユーザーを継承することも視野に入れて設定される。セダンはクラウンの伝統を分かりやすく継承する存在でもある。
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