毎年、さまざまな新車が華々しくデビューを飾るかげで、ひっそりと姿を消す車もある。
時代の先を行き過ぎた車、当初は好調だったものの市場の変化でユーザーの支持を失った車など、消えゆく車の事情はさまざま。しかし、こうした生産終了車の果敢なチャレンジのうえに、現在の成功したモデルの数々があるといっても過言ではありません。
訳あって生産終了したモデルの数々を振り返る本企画、今回はトヨタ プログレ(1998-2007)を振り返ります。
文:伊達軍曹
写真:TOYOTA
今見ても魅力的な“小さな高級車”
トヨタ プログレは、1998年から2007年まで販売されたやや小ぶりな4ドアセダンです。当時、肥大化するいっぽうだった高級車業界に一石を投じるべく「ラージクラスの性能と品質を5ナンバーサイズに凝縮!」というテーマを持って登場した「小さな高級車」でした。
プログレの開発を統括したチーフエンジニアは野口満之氏。野口さんは、トヨタの最高級車種「センチュリー」のチーフエンジニアも務めた人で、センチュリーの超絶手法を惜しげもなく投入したのがこのプログレだったのです。
寸法は全長4500mm(後期型は4510mm)×全幅1700mmと完全5ナンバーサイズですが、中身は完全に「高級車!」と評せる水準です。
内装には「木目調」ではない本物のウッドパネルが惜しみなく使用され、シートはレザーまたはジャガード織のゆったりとしたサイズ。ボディパネルの上塗りも全色5層コートで(通常の上塗り工程は2コート塗装が基本なんです)、吸音材もたっぷり使われました。
搭載エンジンは2.5Lまたは3Lの自然吸気直列6気筒で、駆動方式はいわゆるFR。そのためハンドリングは軽快かつ上質で、小回りも利きました。ちなみにサスペンションは4輪ともダブルウィッシュボーンです。
2000年4月からは内装のリアルウッドに、それまでのウォールナットだけでなく「サペリマホガニー」という高級木材も選べるようになり、2001年4月にはマイナーチェンジで直6エンジンを直噴化。2WDのATが4速から5速になり、その他モロモロの内外装装備もより豪華に、より充実したものとなりました。
2004年と2005年にも装備類をさらに充実させるなどしたのですが、残念ながら市場からの評価は高まらず、プログレは2007年途中にあえなく生産終了。その後、「2代目プログレ」が登場することはありませんでした。
時代の先を行き過ぎた!? プログレが絶版になった訳
トヨタ プログレが生産終了となった理由は二つあると考えられます。一つは「時代が追いついていなかった」ということでしょう。
トヨタとしては「従来のサイズに準拠した性能・品質の序列から一線を画す、高級車の新しい基軸を提示するイノベーティブな4ドアセダンである」(※当時のプレスリリースより)と鼻息荒くデビューさせたのですが、1998年当時の日本社会は、まだぜんぜんイノベーティブ(革新的、刷新的)ではありませんでした。
当時の人々が「なんでカローラサイズの車に400万円も出さなアカンのじゃ!」と言ったかどうかは知りませんが、「ある程度のお金を出すなら、やっぱ立派に見える車がいいよね」と思ったのは確かなようです。
それが証拠に1999年の販売台数ランキングを見ると、売れているセダンはクラウンあるいはマークIIといった立派系か、サニーやコロナ、カリーナなどのお手頃系ばかり。そこには小さな高級車のちの字もありません。
でも……当時の民衆にそれを受け入れる度量とセンスがあったとしても、プログレはやはり生産中止に追い込まれていた可能性は高いと思われます。
理由は「デザイン」です。
悪いカタチだとは思いませんが、プログレの外観からはどうしても「おじいちゃん感」が漂ってきます。
鎌倉あたりにお住まいの70代資産家にはハマるのでしょうが、もう少し若い40代から50代ぐらいの港区在住資産家が、このデザインを「いいね!」とか言いながら契約書にハンコを押してる姿は、どうしても想像できません。同時期のドイツ製小さな高級車「E46型BMW 3シリーズ」ならイメージできるのですが。
とはいえプログレは本当にいい車でした。今でも、それこそ鎌倉あたりでご高齢の方が運転している姿をしばしばお見かけしますが、「いい光景だなぁ……」と、しみじみ思います。
■トヨタ プログレ 主要諸元
・全長×全幅×全高:4500mm×1700mm×1435mm
・ホイールベース:2780mm
・車重:1480kg
・エンジン:直列6気筒DOHC、2997cc
・最高出力:215ps/5800rpm
・最大トルク:30.0kg-m/3800rpm
・燃費:10.0km/L(10・15モード)
・価格:350万円(1998年式NC300)
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