後席に乗る用途が少ないSUVやハッチバックには、後席スライドドアは不要
スライドドアを装備するモデルが限られている理由のひとつは、重量増加による燃費性能と運動性能の低下だ。スライドドアはスライド機構を持つために重量がかさむうえ、自らの重さでドアが撓まないよう、ドア内部と車体側にも補強が必要となる。両側パワースライドともなれば、さらに重量が増すことになり、燃費は悪化し、商品力としては大きなデメリットとなる。
加えて、従来のヒンジドア車と比べて車両重心が上がるため、これまでのようなハンドリングや高速直進性は望めず、SUVやハッチバック、ワゴンの持つ「走りのよさ」は台無しとなってしまいかねない。
そしてもうひとつが、前述した背高モデル以外では、後席を利用する多人数乗車をするケースが少ないため、スライドドアがそれほど必要とされない、ということだ。たとえばSUVには、3列シート車もあるなど、多人数乗車できるモデルもいくつかあるが、多人数で移動する用途よりも、乗員は1人か2人、後席シートを倒してレジャーなどの荷物を運ぶ、といったイメージで開発されていることが多い。逆にいえば、スライドドア搭載車は後席の居住性を他のクルマよりも重視しているため、背が高くなっている。
後席への乗り降りを重視しないので、廉価なヒンジドアで車両コストを下げつつ、運動性能や燃費性能も向上させたほうが、圧倒的に商品力が上がる。もちろん、「スライドドアによる利便性はどうしても捨てがたい」と考える人もいるだろうが、そういった人は既存のスライドドア車の使い勝手のほうが適しているはずだ。
輸入車で採用が少ないのはクルマに対する考え方の違いも ただ今後は採用例が増えてくるはず!!
輸入車では、後席スライドドアを搭載したモデルをほとんどみかけない。日本国内で手に入るスライドドア搭載車は、ルノー「カングー」やメルセデスベンツ「Vクラス」、フォルクスワーゲン「シャラン」、プジョー「1007」など。
自動車メーカーのミニバン開発担当者によると、日本のミニバンユーザーは、クルマを自宅のリビングの延長として使いたいという需要が強くあるという。プライベートな空間となる車内は、友達と会話をしたり、音楽を聴いたり、食事をしたり、時には車中泊をしたりと、自宅の延長として使いたいと考える人が多いが、海外では、クルマは移動手段であり、安全かつ素早く目的地へ移動することを何よりも優先しているそう。そのため、移動するという目的のためには不要なゼイタク装備は装着しない(安グレードで十分)という。
また、かつての日本でもそうだが、欧州市場では、スライドドア車に対して、いまも商用車のイメージが強く、乗用車として使う人は圧倒的に少ない。メルセデスVクラスやルノーカングーもベースとしているのは商用車だ。仕事のクルマを乗用に使うのはカッコ悪いというイメージがあり、クルマのドアは乗員の数だけなくてはならない、という考えがあり、スライドドアは受け入れられないのだそうだ。
ただし昨今は、中国やアジア、ロシアなどで日本のミニバンが大人気となっており、スライドドア付のミニバンの利便性と豪華さ(贅沢装備がなんでもついている)が、海外のユーザーにも認知され始めている。特に、アルファード/ヴェルファイア、レクサスLMの飛躍は、海外メーカーにとっては脅威に感じていることだろう。現時点は少ない輸入車メーカー製のスライドドア搭載車だが、昨今の流行をふまえると、今後は、海外メーカーからも登場する可能性は高い。
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昨今はミニバンといえば背高だが、2019年に販売終了となったトヨタ「エスティマ」は、低い全高によって走行性能を犠牲にすることなく、スライドドア搭載を実現させていた。2024年~2025年にBEVとなって復活するともいわれているエスティマ。はたして、スライドドア車が増えるきっかけとなるのか!?? 今後が楽しみだ。
【画像ギャラリー】これだけある!! 超絶便利なスライドドアをもつ、国産車たち(19枚)画像ギャラリー
コメント
コメントの使い方かつて後席左側をスライドドアにした、初代及び2代目の RVR という時代の徒花が…。現行のRVRは普通のヒンジドアですが。
両側がスライドドアでも剛性が確保(1輪が浮いていてもスライド開閉可能)できていて、45度登坂もモーグル路走行もできるといった、ミニバンの皮を被ったSUVは、デリカ以外には出ないでしょうね。何せヒンジドアのSUVでもデリカより走破性で劣る街乗り専用車種も多数有る位ですから。
3代目スズキアルトセダン。運転席、助手席ともスライドドア車が設定されてましたね