なぜ初代シビックタイプRは199万円だったのに今は3倍以上になったのか?

欧州でホンダブランドを知らしめるため、欧州FFマシンへ戦いを挑んだ結果、価格上昇

 どうしてこれほど価格が上がってしまったのか。その最大の理由はやはり「FF車世界最速」を目指したことにある。

 初代シビックタイプRは、国内のスポーツカーファンに向けたスポーツFFとして投入されていた。90年代当時のライバルといえば、日産パルサー、三菱ミラージュサイボーグ、トヨタレビン/トレノなど。どれも、走りのよい大衆車にスポーツエンジンを突っ込んだようなスポーティカーであり、バトルの場所は狭い峠道や夜の公道がメイン。自動車雑誌が主催する筑波サーキットでのバトルレースにもみな釘付けになっていた(EK9シビックタイプRの怒涛の強さが印象的だった)。2代目・3代目のシビックタイプRも、国内の根強いファンを相手に、(販売台数はさほど振るわなかったが)商品企画がなされていた。

 転機となったのは、4代目のシビックタイプR(FK2、2015年登場)だ。ベースになった8代目シビック(FN型)は日本での販売が見送られたが、タイプRはイギリス製造車を輸入するかたちで国内でも販売された。この4代目シビックタイプRは、ドイツのニュルブルクリンクサーキットでの「FF車世界最速」を目指して開発されたモデルであり、タイプRで初めてターボエンジンを搭載したモデルであった。

 北米では圧倒的な知名度を誇ったホンダであったが、欧州ではホンダブランドの知名度が低く(かつてF1では有名となったが大昔のことだ)、大衆車メーカーのひとつ程度にしか知られていなかったという。自動車メーカーによるレース参戦が盛んな欧州においてブランド知名度を上げるには、レースで勝って証明するのが手っ取り早い。そのためホンダはあえて、欧州車がテスト走行に使っていたニュルブルクリンクを舞台にして、シビックタイプRの目標性能を、「FF車世界最速」へと上げたのだ。

 その高い目標を達成するためには、ベース車からしっかりとつくりこむ必要がある。そのため、4代目シビックタイプRは、これまでの「ベース車ありき」の開発ではなく、タイプRを基準にしたプラットフォームを開発。初のターボエンジンを搭載し、最高出力は310ps、最高速度は270km/hにも達する高性能車となったシビックタイプRは、時のFF世界最速だったルノーメガーヌRSの記録を抜き、見事、FF世界最速を獲得。ただ価格は428万円と、ここで130万円近く跳ね上がった(3代目シビックタイプRは297万円)。

 その後もシビックタイプRの挑戦はつづいており、5代目シビックタイプR(FK8、2017年~)、そして6代目のシビックタイプR(FL5)も、ニュルブルクリンク北コースでのFF世界最速を獲得している(2023年6月時点だと、ニュルブルクリンク北コースで、FL5型シビックタイプRが、7分44秒881を記録)。

シビックが生き残るために必要な進化だったのかも

 当初は、サスペンションや吸排気系のチューンでつくり上げられたタイプRだったが、レースに勝つための開発をした結果、ここまで価格が跳ね上がってしまった。大衆車ベースにエンジンチューンをした程度のタイプRであったならばここまで上がらずに済んだだろうが、ただ高性能となったことで、シビックタイプRは、FF世界最速の称号を得て、世界中にその名を知らしめることに成功した。

 昔の親しみやすいシビックタイプRを懐かしむ人もいるだろうが、これはシビックが生き残るために必要な進化だったのかもしれない。実際、現行型シビックタイプRは受注が2万台集まっているようで、人気のあまり、現時点(2023年6月下旬)受注停止となっている。

 つまり「高い、高くなった」と騒いでいるのは、我々メディアと昔のファンばかりで、いまシビックタイプRを購入しようと考えている現役ファンの皆さんは、「このホンダの路線」を支持している。昔のシビックタイプRを知る者としては寂しい気もするが、誇らしいことではないだろうか。今後もFF世界最速として、ファンを楽しませてくれることを期待している。

2022年登場の現行型シビック。クルマの基本性能はもちろんのこと、空力性能、徹底的に煮詰めた足回りなどで「歴代最強タイプR」といえる
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