レクサスやベンツ、BMWが同じフェイスにする理由 「同じ顔」の利点と戦略

レクサスやベンツ、BMWが同じフェイスにする理由 「同じ顔」の利点と戦略

「ジャーマンスリー」と呼ばれるBMW、ベンツ、アウディ、それにレクサスやインフィニティなどの高級車では当たり前となっているフロントフェイスの意匠合わせ(いわゆる「ファミリーフェイス」)。
 特に昨今は「ド派手化」が進むフロントグリルだが、各メーカーとも頑固なまでに、一貫して同じ意匠で統一している。なぜ皆「同じ顔で統一」する必要があるのか。以下、元日産自動車の新車開発エンジニアである吉川賢一氏に伺った。
文:吉川賢一


■なぜ「顔」の意匠を合わせするのか

  BMWは「キドニーグリル」と呼ばれる意匠を、セダンやSUV、クーペ、さらにはル・マン24時間耐久レースに出場したレーシングマシンに至るまで採用している。

2019年2月に国内販売が始まったBMWの新型X5。SUVだろうとセダンだろうとレーシングマシンだろうと、どこからどう見ても「BMWのクルマ」ということがわかる

 またメルセデス・ベンツのスリーポインテッドスターが付いたフロントグリルも、ベンツの車種すべて共通で装着。昨今では、そのエンブレムは徐々に大型化してきている。

現行型メルセデスベンツCクラス。モデル初期はボンネットの上に控えめについていたスリーポインテッドスターだが、現在はご覧のとおりグリルのど真ん中に、かなり目立つよう掲げられている

 ほかにも、アウディのシングルフレームグリル、レクサスのスピンドルグリルなど。レクサスのスピンドルグリルはクセがありすぎて賛否両論あるものの、採用され続けている(あまりの評判の悪さから、次期型では廃止のうわさもあるが…)。

スピンドルグリルで統一感を主張するレクサス

 自社が作るすべてのクルマを「同じ顔で統一する」、その最大の目的は「ブランドとしての一体感を出す」ことに他ならない。フロントフェイスの意匠合わせは、各メーカーのブランド戦略なのだ。「ブランド戦略」というと、ロゴマーク等の商標を思い浮べると思うが、世間が「かっこいい」と認知する意匠にも訴求効果があり、ブランド戦略の一部を担っていると言える。クルマに詳しい人は別として、そうでない人には、クルマは近くで確認しなければ、ブランドの確認が難しい。各メーカーは、フロントグリルにブランドを意識した意匠を施すことにより、それをカバーしているのだ。
 例えば子供に「ベンツの絵を描いて」と頼まれれば、あなたはすぐに書くことができるだろう。だが「日産ノートの絵を描いて」と言われたらどうか。つまりはそういうことである。

■日本車メーカーがしない理由

  さて、日本車メーカーに目を向けると、例えばトヨタは車種ごとにばらばらの意匠だ。ミニバンタイプだと、アルファード/ヴェルファイア、ヴォクシー、エスティマ、シエンタ、これらは実にバラエティに富んだフロントグリルとなっている。昨今は「ギラギラな迫力」がウケるため、コンセプトは同じだが造形の統一感はない。ホンダも、種類豊富なフロントグリルだ。(マツダや日産は最近統一グリル化を進めており、これについては後述する)

 なぜ、日本で売られている日本メーカーのクルマはフロント部の意匠合わせをしないことが多いのか。それは日本メーカーのクルマは「高級車」ばかりではないという要素が大きい。例えば、せっかく購入したクラウンのフロントフェイスがヴィッツと同じだったら。それでもあなたは喜べるだろうか。

 トヨタや日産、ホンダなどの様なフルラインアップのメーカーは、雑多な形状、様々な種類のクルマを販売しており、それぞれのメーカーの特徴が出しにくい。また、共通のデザインを与えてしまうと制約となり、その時のデザイントレンドに追従できないことにもなりえる。日本車メーカーは、ブランド戦略よりも、「トレンド」や「機能と価格」に重点を置いている、ということなのだろう。

■「ブランドを作る」という方向に舵を切る途中

 各高級車メーカーは、それぞれのフロントグリル形状を、意匠登録をして保護するほど、大事な戦略として捉えている。

 日本車メーカーでも、マツダは、ロードスターを除くすべての車種でシグネチャーウィングと呼ばれるデザインで意匠を合わせ、また、日産もVモーショングリルを、デイズやノート、エクストレイル、セレナ、海外も含めるとマイクラやマキシマまで、グローバルに導入し始めているが、GT-RやフェアレディZなどのスポーツモデルは除いている。マツダも日産も、確固たるブランド戦略を遂行中なのであろう。

マツダもここ数年、同一イメージのフロントマスクで統一感を出している

 意匠合わせは商標と同じメーカーの大事な戦略。「ベンツの絵を描いて」と言われてすぐにかけたあなたは、高級車ブランド戦略の術中に、見事に囚われているのだ。

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