ベストカー本誌で、なんと丸30年も続いている超人気連載「テリー伊藤のお笑い自動車研究所」。過去の記事を不定期で掲載していきます。第一回目はNSX試乗です!(2017年11月26日号より)
写真/平野 学
■私は、NSXの本当の姿を10分の1も理解していなかった……
ついにNSXがやってきた。
NSXを太陽の下で見るのは初めてだが、じっくり観察していると、スーパースポーツカーを作るというのは大変な仕事だなと改めて思う。初代NSXの残像を残しながら現代的なクルマにするとなると、どうしても力が入る。スバルやマツダなど、過去に2000万円級のクルマを作ったことがないメーカーのほうが、しがらみがなく、自由に作れてラクかもしれない。
スーパースポーツカーというのは、まず、外観や内装に圧倒的な魅力がなければ成り立たない。世界には何千万円、いや何億円もするクルマを1mたりとも走らせることなく、ただ所有しているだけで満足している人がたくさんいる。もはや自動車ではなく芸術品。そういうのが真のスーパースポーツカーともいえる。
さすがに、NSXにそこまでのレベルを求めるのは酷だということはわかっている。しかし、あまりオーラを感じないのも事実だ。残念ながら、NSXは所有するだけで満足できる類のスーパースポーツカーではないと思える。
と、はじめはわりとクールにNSXを見ていたわけだが、実は、その段階ではNSXの本当の姿を10分の1も理解していなかった。私はNSXを見て、触って、わかったつもりになっていただけなのだ。
止まっている時のNSXは仮の姿だ。まったく本気を出していない。しかし、走り出すと豹変するのだ!
走り出して10秒で、私はNSXの本当の姿、真の価値を発見した。「ほお〜、そういうことだったのか!」とすべてを理解した。
■高級感のなさがNSX最大の魅力だったのだァ!
走りにまったく高級感がない。エンジンは回り方も音もガサツで、味わいも上質感もなく、とても2370万円のクルマとは思えない。しかし、この荒さこそがNSX最大の魅力であることがわかったのだ!
試乗中、私はずっと笑ったり、うなったりしていた。
「おっほほほ〜」と笑ったかと思えば、「う〜ん、そうかぁ、そういうことなのかぁ」と独り言をつぶやいたりしていた。試乗中の様子を録音していたら、おそらくレコーダーにはそんな言葉ばかりが入っていたはずだ。これは面白すぎる!
もっと洗練されたクルマを想像していたのだ。なんたってEVモードもあるハイブリッドスポーツで、しかも2370万円もするのだからレクサスのような乗り味を想像するのも当然ではないか。
しかし、NSXはいい意味でその予想を裏切ってくれた。高級レストランで上品にフランス料理を食べているのではなく、なりふり構わずカツ丼の大盛りにかぶりついている感じ。「あいつ、うまそうに食ってるな!」と、見ているこちらが嬉しくなるような食べ方だ。
それが2370万円もするというのがいい。NSXを買える人は、普段高級店でうまいものを食べて、いい家に住んで、いいモノを身につけている人だろう。そんな同じようなテイストのクルマを買ってどうするのか。NSXは高いのに走りが荒いからいいのだ。これで安かったら、ただ未完成なクルマということになってしまう。
評論家の人たちはNSXの走りにいろいろと難癖をつけているのを知っている。サーキットでは腰砕けになるというような記述をベストカーで見たこともある。しかし、私はサーキットを走らない。せいぜい空いている首都高でコーナリングを楽しみ、湾岸道路の直線で加速の凄さを味わうくらいだ。そういう場面では、NSXの性能の1割も使えていないだろう。文句などあろうはずもないのだ。
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