■稽古を終えて、ラーメン二郎に並ぶ地下アイドル
では乗ってみよう。GRヤリスはMT専用車で、iMTという新しいトランスミッションが装備されている。
驚いたのはエンストした時に勝手にエンジンが再始動することだ。焦ってエンジンをかけ直す必要がないし、そもそもエンストしにくい制御もしてくれているらしい。
「せっかくだから」と首都高速も走ってみたのだが、なるほど走りは爽快だ。爽快なうえに上質でもある。ギアチェンジを繰り返しながらそこそこのペースで走っていると、運転に集中している自分に気づく。これぞスポーツカーである。
クルマはこうでなくては、と思う。考えごとをしながら、ボーッと運転できてしまうクルマばかりに乗っているとクルマを舐めてしまう。GRヤリスは集中力を要求するし、運転に夢中にさせてくれる。さすがはラリーベース車だと思うが、ならば、もっともっと派手でもいいような気がする。こういうクルマは「穏便」が最大の敵なのではないか。
例えば、ボンネットに透明のカバーをつけて、自慢のターボエンジンが外から見えるようにするのはどうだろう。フェラーリやランボルギーニがやっているあれだ。また、巨大なスポイラーをつけてもいいし、フェンダーももっと膨らませてもいい。そうしてコトをどんどん大きくして欲しい。繰り返すが「穏便」なのが一番よくない。
最近のクルマ、特に日本車には穏便なものが多い。カロリーをしっかり計算した食事のようなもので、健康にはよさそうだが、たまには血の滴るようなステーキにかぶりつきたくなるし、夜中にラーメン二郎の味が恋しくなることもある。体にはよくないかもしれないが、そんなことができるのも生きる力のひとつである。GRヤリスが欲しいというのは、きっとそういうことなのだろう。
そんなことを考えていたら、私のなかで結論が出た。GRヤリスは「稽古を終えてラーメン二郎に並ぶ地下アイドル」だ。前向きでパワフルで、青春を謳歌している女の子。メジャーを目指しながらもマイナーで、マイナーだからこそファンの熱意がもの凄く、そして、自分自身も強烈なパワーを備えている。
こうして言葉にしてみると、GRヤリスはトヨタらしからぬトヨタ車であることがよくわかる。ただし、まだ「穏便にすませよう」という意識が見え隠れしている。もっともっと思い切るべきだ。私のお薦めは「外からエンジンが見える透明なボンネット」だ。モリゾウさん、やってみませんか?
(写真、内容はすべてベストカー本誌掲載時のものです)
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