■バッテリーEVにも今後はトランスミッションが搭載されるはず
一方、現在の量販バッテリーEVには、(一部の車種を除いて)トランスミッションは備わっていない。
電動車に備わるモーターは、ゼロ回転時から強いトルクを発揮できるため、もっともトルクが欲しいゼロ発進や坂道発進のようなシーンから、市街地などの中速、高速道路などの高速まで、変速をせずに走行することが可能だからだ。
ただ、モーターの回転を適切な数に落とす減速機(ギア)はある。日産リーフに搭載されているEM57モーターの最高回転数は1万500rpmほどだ。最終減速比は8.193とあるので、およそモーターが8回転すると車軸は1回転、つまり減速(ギヤダウン)されている。
モーターの大きさ(出力特性)と減速比を適切に設定してタイヤを回転させることで、世界のおおよその速度上限レンジである140km/h程度ならば、トランスミッションがなくともカバーできるようになっている。
また設計的にも、トランスミッションはないほうが、省スペースで済む(他のスペースに使える)、整備対象が少なく済む(トランスミッションの整備が不要)などのメリットもある。こうした背景から、現在のバッテリーEVは、1速が主流となっている。
ただ、(バッテリーEVにトランスミッションが)まったく必要ないわけではなく、内燃機関車と違い、回転数が増えるほど電費が落ちる傾向のあるバッテリーEVでは、航続距離確保のために、トランスミッションが導入される可能性がある。
2019年に登場したポルシェのBEV「タイカン」が、業界初となる自社製の2速トランスミッションを備えて登場したことは、ちょっとしたニュースになった。
タイカンは、後輪のアクスル上に、ショートレシオの初期加速用ギアと、ロングレシオの高速走行時の加速維持用ギアの、2速トランスミッションを備えており、ポルシェによると、「加速の強さと最高速度を両立し、さらには、航続距離を伸ばすこと」が狙いだという。
実際、タイカンGTSの最高速度は250km/hにもなる。
バッテリーEVであろうとも内燃機関と遜色のない最高速を求められるポルシェならではの技術だといえるのかもしれないが、一般的な量販BEVであっても、トランスミッションを搭載することで航続距離を伸ばせる可能性があることから、導入検討中のメーカーも多いはずだ。
いずれは、量販BEVにもトランスミッションの流れがやってくるものと予想している。
■すでに変速機付きe-Axle搭載の動きが
2023年12月初旬に富士スピードウェイにて行われたNISMOフェスティバルの会場で、トランスミッションメーカーのジヤトコが、エンジンとパワートレインを取り除き、バッテリーとe-Axleを搭載したコンバートバッテリーEVの日産タイタンを世界初公開している。
このe-Axleは、モーターと変速機を一体化したパワーユニットで、3速のギアを備えており、一速は低速時やトーイング(けん引)の際に使い、2速は街中のような走行シーンをカバーし、3速は高速巡行の低電費走行用とすることが可能としている。
この例をみても、レイアウトやサイズの問題はあるにせよ、近い将来、e-POWER車やバッテリーEVに搭載される可能性は高い。
もちろん海外メーカーも考えることは同じで、ドイツの自動車サプライヤZFが、2019年頃にバッテリーEV用のトランスミッションe-Axleの開発を発表しており、主要自動車メーカーへ2025年ごろから供給開始する予定だという。
日本と海外、どちらが先に変速機能付きのe-Axleを商品化し、どのクルマに載せてくるのか!?? 今後が非常に楽しみだ。
【画像ギャラリー】9速や10速トランスミッションを持つクルマたちはこれ!(10枚)画像ギャラリー
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