2024年1月に開催された東京オートサロン2024の会場で、トヨタ会長豊田章男氏の化身(?)であるモリゾウ氏が行った「エンジン技術にもっと磨きをかけるプロジェクトを立ち上げる」というスピーチ。ここで改めて深掘りしてみる。
※本稿は2024年2月のものです
文/ベストカー編集部、写真/TOYOTA
初出:『ベストカー』2024年3月10日号
■ある意味「東京オートサロン一番の目玉」
1月の東京オートサロンで豊田章男トヨタ会長の化身(?)であるモリゾウ氏が「エンジン技術にもっと磨きをかけるプロジェクトを立ち上げる」と宣言。佐藤恒治社長をはじめとする経営メンバーも賛同し、プロジェクトは動き始めているという。
ベストカーとしては「よくぞ言ってくれました!」なのだが、なかにはBEV時代の到来を前に「正気か?」と批判する向きもあるかもしれないし、またぞろ脱炭素ランキング最下位などと揶揄される可能性もある。
それでも宣言した理由は何か? 専門家の皆さんに考察していただこう。
■モーター時代の新発想エンジン
今さらエンジン?と思う人もいるかもしれない。
2023年の世界BEV生産実績は1000万台だった。2035年のグローバル新車販売予測は1億1000万台と言われている。つまり本当に2035年までにICEを完全禁止にするなら、11倍のBEV販売を達成しなくてはならない。
バッテリー資源や充電インフラの確保は間に合うのか。バッテリーとBEVの工場建設はどうなのか。オールBEVの時代には補助金はない。それで車両価格は庶民が買えるくらいまで下がるのか。
課題は山積みだ。BEVは今後も増加するだろうが、オールBEVは相当に難しい。ここ最近、多くの人は2035年のBEV普及上限は「おそらく30%程度だろう」と言い始めている。
筆者も同意である。それを前提で言えば、残り70%はなんらかの形でICEを搭載するのだが、それでもエンジンは要らないだろうか?
■ICEとモーターの関係が変化する
そうした予測を頭に置いて、豊田章男会長が、オートサロンで発表したトヨタのエンジン開発プロジェクトの意味を考えればその狙いはわかる。
BEV用も含めた次世代バッテリー計画について、現在トヨタはバイポーラ構造タイプを主軸にする予定だ。注目の全固体電池は、コスト高で当面フラッグシップ用だろう。大容量なので、充電器の能力も求められる。
しかし、一部突出した高価格モデルのために、普及価格のBEVでは性能が活かせない高額な充電器を大量に普及させるのは無理があり、それくらいなら普通の充電器をもっと増やしたほうがいい。
全固体電池のコストが普及価格のBEVに使えるくらい下がり、誰もが高出力充電器を使うようにならない限り、主力にはなりえない。だから今はバイポーラだ。
現在ニッケル水素と組み合わされているバイポーラ構造は今後、リン酸鉄リチウムイオンや三元系リチウムイオンと組み合わされ、価格や用途別にバッテリーマルチパスウェイを実現していく計画をトヨタはすでに発表している。
バイポーラは、瞬間的な電力の出し入れに強い。端的に言えばトルクとレスポンスに優れるのだ。
そうなると、これからのHEVやPHEVは、従来のICEとモーターの関係が主客転倒して、どんどんモーターリッチの方向へ向かうだろう。一例で言えばシリーズ型であるとか、低速は完全にモーター駆動で高速だけパラレルにエンジンを使う形である。
トヨタはTHSIIでHEVをリードしてきたが、従来のHEVに使われてきたダイナミックフォースエンジンはパワトレの主役用であり、モーター主役型システムに組み込むにはいろいろと過剰である。
次世代システムには低速から高速までの満遍ない性能は要らない。特定の回転数で効率よくパワーを発揮できるスイートスポットの狭いピーキーなもので構わない。エンジンに求める条件が変わってくるのだ。
例えばバルブスプリングを柔らかくするだけで馬力のロスが減る。コンロッドやクランクも回転上限を低く決めれば従来の強度は要らないから軽くできる。ブロックも同じだ。
代わりに特定回転に吸排気をチューニングし、そこで過給してトルクを上げる。そういうモーターリッチ時代の新発想のエンジンこそが今回発表されたプロジェクトになるはずである。
(TEXT/池田直渡)
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