インサイトとカムリからみる和製ミドルセダンの現状と課題【天才エンジニアが斬る!!】

■インサイトのワイパーむき出しは車格からしてありえない

 今日はあいにくの雨降りですが、見てください、フロントフェンダーの後方でドアの真ん中まで大きく跳ね上げられた渦状の泥水の跡が残っています。これは風が流れた跡です。

 フロントマスクはカムリもインサイトもグリルとバンパー面に大きな段差があって、これは渦の発生源となり、空力的にはあまりよくありません。

 もっとも、いいか悪いかは別にして、カムリは「このトヨタ顔」に決めたのでしょうから、それはいいと思います。しかしベンツもBMWもフロントマスクにヘンな段差などは付けていませんが。

ここまでワイパーアームの根元がクッキリと見える車種は最近あまり見ない。特に約350万円のクルマとしては少し残念な部分だ

 またワイパーを見てください。今どきこの車格で、このインサイトのように大きく曲げて湾曲したワイパーアームがむき出しのクルマなどありません。

 フラットな形状のフード後端から来る強い風が、大きく湾曲して露出したワイパーアームに当たるので、大きな渦ができてしまいます。

 ここはしっかりとアームをフードの中に隠すか、あるいはフード後端にアプローチの傾斜をつけることでフード後端の位置を上げて、素直にフロントウィンドウの風を流す処理が必要です。

 まずはスケールモデルでムービングベルト風洞開発テストをしっかりやり、空力開発を終了してから実車風洞で最終確認をする。

 本気でエアロダイナミクスを追求するのなら、しっかりと手順を踏んでほしいところです。さらにフード後半部分のフェンダーとのパーティングの隙間から、ヒンジなどの中の臓物がもろに見えるのは販売価格を考えるとありえないとも思います。

 インサイトのエンジンルームを見ると、ホンダもストラットアッパーをダッシュパネルと直接繋げる構造をとるようになってきましたね。

 樹脂パネルでカバーしていますが、ガッチリとしたスチールの板をダッシュパネルに這わせて左右のストラットアッパーを繋げています。

このクラスとしてはいまだにポールを採用しているインサイトのボンネットストッパー。価格帯を考えれば……

 エンジンフードは、カムリはガスダンパー使っているのに対しインサイトはポールです。このクルマの価格からはガスダンパーくらいは欲しいところです。

 エアインテークはエンジンルーム前端に上向きに配置しています。ボンネットフードの隙間からフレッシュエアを取り入れて、フード裏側のエアダクトを介して吸気するレイアウトです。

 これはこれで面白いアイデアなのですが、よくよく空気の流れを考えると、このインテークダクトはちょうどラジエターの上に位置します。

 ある程度の速度で走行している時はいいのですが、渋滞で止まっていたり、低い速度の時は下からの熱で吸気が暖められてしまいます。

■汎用性の高いカムリのHVユニットに対して改善の余地があるインサイト

 パワーユニットのレイアウトを見ても、システム化されて汎用性を高めているカムリのハイブリッドと比べてインサイトは無駄なコストがかかっているように見えます。

 カムリのハイブリッドシステムは安く、共用化で効率よく作っています。これは安っぽいという意味ではなく、無駄なコストを抑えて、汎用性を高めた合理的で量産効果のあるパワーユニットの構造、レイアウトだという意味です。

 それに対してインサイトはまだまだ発展途上。このパワーユニットをそのまま、どのクルマにもポンと搭載することはできないでしょう。機能を高めながら原価低減はまだまだ可能です。

 続いてインテリアを見てみましょう。インサイトの室内を見ると……、とてもこの販売価格のクルマには見えません。

質感は決して高くなさそうなインサイトのインパネ。設計段階と実物の完成後のギャップが大きかったようだ

 インパネはプラスチック感がむき出しで、シボもあいまいで安っぽい。質感を感じません。一方助手席側は革を使って差別化を図っています。

 インパネの段差の付け方など、造形検討の段階では、艶もなく光を反射せず吸収するクレイ粘土を使って見ているために立体感があっていいと感じる形状なのでしょう。

 しかし実際の樹脂素材になった時、今度はその立体造形がガチャガチャして見えるのです。仕上げ後の素材感やカラーのイメージができていません。

 インパネ全体がつや消しブラックなのに、センターのモニター画面はテカテカ反射するような表面処理で、ここだけが浮いて見えます。

 一体感が感じられません。インパネはブラックを基調としていますが、黒の色調が7色あり、まったく統一感がありません。

 形状によって反射の仕方が違うのですから、微妙に色調を変えて、視覚的には同じように見えるようにするのが「プロの仕事」なのです。

 クレイ粘土のモデルから、実際の生産用材料に変えた実車時のそれぞれの黒色の見栄え変化がわかっていません。まずは基本の基本をしっかりと押さえて、それからさまざまなアレンジにトライしてほしいです。

 シートは可もなく不可もなくですね。ただ、このシート形状は実際に走るとサポートが効きません。

 止まった状態で座ってみると、サイドサポートが身体を支えるように感じますが、実際に走ってGがかかると身体を支えきれません。もっと腰の部分を包み込むような形状でないと、動くクルマでドライバーの身体を支えることはできません。

 後席はフロアと座面の高さ感は標準的で腿が大きく浮くことはなく、まあ標準的です。

 トランクリッドを開けると、インサイトは自重で勝手に閉まってきてしまいます。これはいけません。

 カムリのトランクはロックを解除するとトーションバー反力でスーッと開いていきます。これが普通の設計でしょう。ところがインサイトは開かないばかりか、開度半分より下方では自重で勝手に落っこちて来て閉まってしまうのです。

 雨が降るなか、半分開きで荷物の出し入れをしたいときなど、落ちてきたトランクリッドが頭に当たりそうです。設計の基本となる部分です。

ブラック基調で落ち着いた雰囲気のカムリのインテリア。トランクなども実際に使う人の目線で作りこまれている

 カムリのインテリアは上手にまとめていると思います。ブラック基調の色調の合わせ方も上手で、インサイトのようにガチャガチャした印象はありません。

 センターパネルのピアノブラックと、その他の部分のつや消しブラックの2種類でまとめられています。

 シートはいいです。背もたれ中央部が体重でスッと沈み込んで包み込むようなフィット感が得られます。

 インサイトのシートはフラットなまま均一に沈み込むためサイドサポートの張り出し頼みだったのですが、カムリのシートは背もたれ全体で身体を支えるシートです。

 これは実際に走り込んで作り上げていったシートです。対してインサイトはメーカーが持ってきたものを車載しただけで「走っていない」し「使い込んでいない」ように感じられてしまいます。

 カムリの後席はやはり広い。当たり前ですがアメリカ人がゆったり乗れるサイズです。

次ページは : ■乗ってわかる2台の実力。インサイト79点 & カムリ91点

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