新たに生まれる車があれば、去っていく車もある。2012年絶版となった10台のクルマたちの足跡を追う。「古い車名が消える利点と欠点」も収録。(本稿は「ベストカー」2013年1月10日号に掲載した記事の再録版となります)
TEXT/渡辺陽一郎
■栄光のロータリーエンジン搭載車、逝く マツダ RX-8(2003年4月~2012年6月)
初めて会った時のことはよく覚えています。鋭角的な姿がとてもカッコよかった。
真横から撮影した写真の上に薄紙を乗せ、ボディの輪郭だけをトレースし、その中に普通の横開きドアを書き込んでみました。すると背の低いマセラティクワトロポルテみたいなセダンになるんです。
骨格を煮詰めたうえで観音開きのドアを与え、外観をクーペ風にアレンジしたから美しくなったのでしょう。
ロータリーエンジンにも興奮しました。ターボ付きのRX-7はガサガサ回る感じで過給器のクセも強かったですが、自然吸気のRX-8は超絶的に滑らか。これがロータリーなのか! と目からウロコ。
重量配分も優れ、走行安定性を含めて運転感覚は上質。ベストカーの採点でも、私はRX-8には常に高い点数を付けていました。気持ちは今も変わりません。GT-Rに勝る最高峰のスポーティカーです。
惜しいクルマを失いました。クルマ好き、メーカーやディーラーの関係者、いろいろな人たちが悲しんでいるでしょう。
●生産中止理由
世の中の流れで、大手術が必要になりました。大食漢で地球に優しくない、衝突安全性への対応、ボンネットとエンジンのあいだに大きなクラッシャブルゾーンが必要など、いろいろな要求を突きつけられたのです。
それでもクーペが好調に売れる時代なら、メーカーも大手術に挑んだと思いますが、今は棲みにくい世の中。断念せざるを得ませんでした。
悔しいですが、これぞロータリー! これぞ日本のスポーティカー! そう思えるRX-8に出会えて幸せでした。彼のDNAを受け継いだクルマに会える日を心待ちにしております。(生産台数19万3318台)
■軽スポーツの雄、日本自動車界の誇り ダイハツ コペン(2002年9月~2012年8月)
軽自動車は小宇宙になった。コペンに出会って確信しました。
SUV、商用車ベースのミニバン風、さらにオープンスポーツのコペン。小型&普通車のすべてが軽自動車でそろう、小宇宙が完成した瞬間でした。
運転感覚も軽自動車を超えてスポーツそのもの。直列4気筒インタークーラー付きターボを搭載し、吹き上がりは機敏で動力性能も充分。オープンボディでも剛性が高く、サーキット走行も満喫しました。
低い着座位置から見た風景、小気味よく決まるシフトレバー、MOMO製ステアリングの感触……。今でも鮮烈によみがえります。ソアラ並みの電動開閉アクティブトップも精密な作りでしたね。
●生産中止理由
1カ月に100台以上は売っていましたが、薄利多売の軽自動車では最小規模。4気筒エンジンも次々と廃止され、最後はコペン専用でした。歩行者保護など安全対応もあったでしょう。
発売時点で開発者は「まったく儲からない」と言いましたが、10年間頑張りました。生産終了と同時に特別仕様車も発売され、見事な最期を飾りました。(生産台数:6万1238台)
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