ベストカー本誌で30年も続いている超人気連載「テリー伊藤のお笑い自動車研究所」。過去の記事を不定期で掲載していきます。今回はVW(フォルクスワーゲン)アルテオン試乗です!(本稿は「ベストカー」2020年12月26日号に掲載した記事の再録版となります)
撮影:西尾タクト
■欧州で流行る4ドアクーペ デザインまずまず&乗り味なかなか でもなぁ……
VW(フォルクスワーゲン)アルテオンは今、ヨーロッパで流行っている4ドアクーペだ。
4ドアクーペは大ヒットしたカリーナEDなどで1980年代に日本車メーカーが開拓したジャンルだが、人気は長く続かなかった。
熱しやすく醒めやすい日本人の性質のせいもあったが、当時の自動車評論家の多くが「背の低いセダンなんてあり得ない」と反対したのも影響したかもしれない。
タイトなスーツに対して「ズボンが細すぎる!」と文句を言っているようなもので、当時から「この人たちは頭が固いな」と思っていたものだ。
それはさておき、アルテオンはなかなか格好いい。
1980年代に流行った日本の4ドアクーペのようにサイズが小さいわけでもないから、室内の広さも犠牲にしていない。ただし、背が低いのは事実なので、運転席から空が見えない。
私は週に2回、慶応大学の大学院に通っている。
葉山のほうから江ノ島に向かって海沿いの道を走り、キャンパスに行くのだが、天気がよければくっきりと見える富士山が、たぶんこのクルマでは見えない。残念である。
アルテオンがVWのクルマであるのも微妙なところだ。
ポロやゴルフが名車であるのは疑いないが、ファッションでいえばカジュアルだ。カジュアルを基本とするブランドで高級スーツは売りにくい。
いつも混んでいるビームスやユナイテッドアローズのお店でも、スーツのフロアにはあまりお客さんがいない。それと同じ雰囲気を感じてしまう。
280psを発生する2Lターボエンジンの走りは、予想以上に荒々しさがあって好感が持てた。ドライバーに走っている感覚がダイレクトに伝わってくるタイプだ。
ゴルフR直系のエンジンだと聞いて納得したが、オシャレな外観のイメージとは異なる乗り味で、これはこれでいい。
スポーツモードでは足も硬めで、これなら日本人が大好きな「GTI」を名乗ってもよかったのではないかと思う。
■トヨタは「クラウンをぶっ潰す」と宣言せよ!
アルテオンをじっくりと眺め、触れ、走らせることでつくづく感じたことがある。こういうクルマこそトヨタに作ってほしいということだ。
日本人にとってのセダンはクラウンで止まっている。
日産がセドリック/グロリアで対抗していた時代もあったし、ホンダもレジェンドが頑張っていた頃もあったが、もう何十年間も、日本では「セダンといえばクラウン」という時代が続いている。
そして、それに飽き足らない人はドイツ車にいく。
トヨタは自らが作り出し、そして安住している「クラウンの呪縛」を解く義務があるのではないか。
そのためにもアルテオンのような冒険心のあるセダンを作ってほしい。
そもそも、かつてのセダンの役割は今、SUVが担っている。つまり、クルマの基本はもはやSUVに移っているのだ。
だとしたら、セダンは背の低いクルマでしか実現できない格好よさを追求するしかない。
アルテオンのやっていること、目指している方向はすごく時代に合っているのだ。それをなぜトヨタがやらないのか。
ちょっと待ってくれテリー、それはレクサスでやっていることだし、新しいクラウンもそこを目指しているじゃないかと言われるかもしれない。
でもそれは違う。レクサスではなくトヨタでなければダメだし、クラウンがどれだけ変わろうとも、それがクラウンであるかぎり日本人はクラウンの呪縛から解放されないのだ。
それは日産でもホンダでもマツダでもスバルでもやってもいいことだが、現実問題として、今セダンで冒険できる余裕と気概があるメーカーはトヨタ以外にないだろう。
小泉純一郎が「自民党をぶっ潰す」といって自民党総裁になったように、トヨタは「クラウンをぶっ潰す」という気持ちで新しいセダン像を生み出す気力をみせてほしい。
現代の4ドアクーペのハシリは2005年に登場したベンツCLSだったと思う。
今でもよく覚えているが、私はこの連載で試乗した時「CLSに乗ると胸毛が生えてくる」と書いた。
ドイツ車なのにイタリア車のような華やかさがあったからだが、裏を返せば、真面目で規律正しいけれど、遊び心を楽しむ余裕がないドイツ人のコンプレックスが生んだクルマだったと私は理解している。
VWもアルテオンでそうしたイメージを覆したいという思いがあるのだろう。
格好いい4ドアクーペはメーカーのイメージを変えるし、街の景色も変えてくれる。
私はアルテオンの挑戦を歓迎するとともに、トヨタをはじめとする日本車メーカーも、ぜひこの分野にチャレンジしてほしいと思う。
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