ベストカー本誌で30年も続いている超人気連載「テリー伊藤のお笑い自動車研究所」。過去の記事を不定期で掲載していきます。今回はトヨタ カローラスポーツ試乗です!(本稿は「ベストカー」2020年12月26日号に掲載した記事の再録版となります)
撮影:西尾タクト
■何かピンとこない
7月のある日、横浜の特設スタジオでラジオの生放送を終えたあと、カローラスポーツハイブリッドと対面した。
そのまま横浜の街で撮影していると「テリーさ~ん!」と多くの人が声をかけてくれる。
私を街で見かけるのがめずらしいだけだと思うが、そうして声をかけてくれるのはうれしいこと。一緒に写真を撮ったりして楽しんだが、カローラスポーツに関心を寄せる人はほとんどいなかった。
私としても「ピンとこないな」というのが正直なところだ。
SUVやミニバンばかりの世の中はつまらないので、こういうクルマが出てきてくれるのはありがたい。
しかし、中身はC-HRとほぼ同じと聞くと「C-HRを選ぶ人のほうが多いだろうな」と想像してしまう。
編集担当は「走りがいいでしょ!」と言うが、そもそも「走りがいい」とは誰を基準に考えるべきものなのか。
少しの違いを感じ取るプロもいれば、小さな差を感じない一般ドライバーもいるだろう。
私もそのひとりだが、カローラスポーツで街を走っていて「走りが素晴らしい!」という印象は受けなかった。
もちろん、悪いところもないのだが、率直な感想は「少し大きいアクアかな?」というもの。
この連載をしていると、トヨタのハイブリッド車に乗る機会が多く、そのどれもが同じような乗り味なのである。
車種が多すぎるのだ。選択肢が広がるのはいいことだが、クルマはこんなに必要なんだろうか? と思う部分もある。
今のテレビと同じ。
昔、人気番組の視聴率がよかったのは選択肢が限られていたからで、今とは状況が違う。
クルマも販売台数の意味が昔と大きく違っているのではないだろうか。
カローラスポーツはコネクティッドサービスも特徴のひとつだ。
「クルマとトヨタスマートセンターが通信で繋がることで、さまざまなサービスが利用できる」とカタログに書いてあるが、いまひとつ実態がつかめない。
「トヨタもデータを集めて何ができるかまだわかってないんですよ」と編集担当は言うが、そんなものだろうか。
だが、新しいテクノロジーが過去の常識をどんどん変えていくのは確かだろう。
木枯し紋次郎やシェーンなどの旅人も、今どこにいるのか、どこに向かっているのか筒抜け。
映画『幸福の黄色いハンカチ』でも、(高倉)健さんがストリートビューで黄色いハンカチが出ていることを見てしまったら物語は台なし。
テクノロジーとは怖いものだ。しかし、コネクティッドカーがこれからの常識になるのは間違いない。
■カローラは「上がりのクルマ」ではなかった!
今回カローラスポーツに乗って、カローラはまだ迷っていると思った。
このクラスのハッチバックは、王者VWゴルフを擁する世界の主流カテゴリーだ。
カローラスポーツもゴルフを目標にしているのだろうと想像するが、正直に言って、それほどのインパクトはない。
カローラはいつの時代もクルマ界における標準時を示すような存在だった。
いいも悪いも日本車の軸であり、セダン、ワゴン、ミニバン、SUVなど人気のジャンルは変わっても、カローラは常に日本車の中心にいた。
レビン/トレノはずいぶん昔に消滅し、かつてワゴンのフィールダーでキムタクをCMに起用したものの期待ほどの効果は得られなかった。
日本で一番格好いい男がワゴンに乗ったらどうなるか、その化学反応は起きなかったのだ。
そして、このカローラスポーツである。
カローラはまだ模索している。次はどこへ行くべきなのか、まだ迷っている。それが私には嬉しい。
カローラは「上がりのクルマ」「終わったクルマ」という印象を持つ人が多いだろう。
私もそのひとりだったが、カローラスポーツに乗って、その認識は間違っていることがわかった。カローラは発展途上のクルマだったのだ!
上がりではないし、終わってもいない。いくつになっても迷い、このままでいいのかと思っている。
カローラは誕生から50年以上経っても、迷いながら挑戦しているのだ。
その姿が自分と重なる。私も常に今のままでいいのかを考え、迷って、ジタバタしている。たぶん死ぬまで発展途上だ。
カローラはこれだけの実績を残しても、まだ旅の途中にいる。カローラスポーツに乗って、それがわかったのは収穫だった。応援したいクルマである。
●テリー伊藤 今回のつぶやき
カローラはこれだけの実績を残しながら、まだ旅の途中にいる。いつも発展途上であることが私は嬉しいし、応援したい。
(写真、内容はすべてベストカー本誌掲載時のものです)
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