多段化だけじゃない!! 燃費や伝導効率も劇的進化
「ATはMTよりも燃費が悪い」と言われたのは、もはや過去の話になりつつあります。
クラッチをドライバー自身が操り、エンジンからの駆動力を最小限のロスでトランスミッションに伝えることができるMTに対し、ATはトルクコンバーターによる変速時のスリップが大きなロスを生み出し、伝導効率が悪く、加速や燃費に悪影響を及ぼしていたのです。
この課題を解決するため、トルコンの油圧クラッチを機械的に固定し、ダイレクトにエンジンの力をトランスミッションへ伝え、トルコンの問題点であった“滑り”を減らすロックアップ機構が登場しました。
ロックアップ機構を初採用し、ATにダイレクト感を持った走りを与えたのは1990年のポルシェ911カレラ2です。
ロックアップ機構を生かすのに欠かせない低回転域のトルクが、軽量ボディに3.5Lエンジンを積んだポルシェ911には充分にあり、その後、トルコンATはロックアップ機構を備えて進化していきます。
現在主流になっている小排気量ターボエンジンやディーゼルのように、広い回転域で高いトルクがフラットに立ち上がるエンジンは、進化したロックアップ機構を採用するトルコンATと、非常に相性のいい組み合わせです。
「変速スピード」など苦手分野でもATの性能はMT以上に
変速スピードもMTがトルコン式ATに比べて優れていた点ですが、現在ではATの方が変速スピードも速くなっています。
先に挙げたロックアップ機構を、発進時を除く全域で発生させることで、MT車のようなダイレクトな動力伝達を実現し、多段化によるATのクロスステップにより、レクサスLC500では、トルコンATにもかかわらず、わずか0.2秒で変速が可能になっています。
また、変速スピードの問題をクラッチの枚数で解決しようとしたのが、フォルクスワーゲンのDSGに代表される「デュアルクラッチトランスミッション」です。
クラッチを2系統もち、片方が奇数段、もう片方が偶数段のギアを担当し、変速時に次のギアが準備状態で待っている機構です。シングルクラッチの際に発生する、次のギアへクラッチを繋ぎなおす時間を極限まで短くすることができます。
このトランスミッションは、2003年にゴルフ R32で初採用されました。2つのクラッチを切り替える時間はわずか0.05秒、エンジン回転数合わせのため、0.2秒ほどクラッチを滑らせ変速を完了させます。
これらの技術開発により、手動でシフトチェンジを行うMTよりも速い変速スピードと、ダイレクトにクラッチを繋げることができるMTと同程度の伝導効率をもったATが登場し、MTが持っていた利点はなくなっていきました。
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30年前は、手動でしか調整できないと思われていた技術が、自動化でも同様のレベルまで高まり、さらに多段化により静かで滑らかな走りを得たATは、人間の操作するMTを超えるレベルにまで達しています。
日常のドライビングでも、モータースポーツの世界でも中心となったATは、今後も進化を続けていくでしょう。
■佐々木亘(自動車コンサルタント)/大学卒業後、金融業に従事するも自動車業界への眺望が捨てきれず、自動車ディーラー営業職へ転職。レクサス・セールスコンサルタントとして7年間勤める。より良いカーライフを多くの人に提案・提供するため、自動車コンサルタントとして独立し、エンドユーザーを意識した、クルマに関する情報発信を行っている。
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