いま人気が再熱しているNAロードスター。とにかくかわいい見た目に反してキビっとした動きは多くの人々を虜にしたであろう。デートもモータースポーツもこなせ、乗る人によって姿が異なる変幻自在のカメレオンカーを今回は振り返っていく。
この記事はベストカー1989年05月26日号(著者は竹平素信氏)を転載し、再編集したものです
■ウオッ、こいつはカッコいいや!
谷田部でウワサのユーノス・ロードスターを初めて見たとき、ボクはためらいなくそうつぶやいた。何がカッコいいかって? どこがどうというよりは、ユーノスの実物が現実にボクの前に存在すること自体、ウキウキ、ソワソワしてしまうのだ。
そんなアピール性を持った、存在感のかたまりのようなカッコよさをユーノスは持っている。ロ―ドスターであること、それはそれでカッコいいものだが、ボリウム感タップリの丸っこいスタイリングで、あのスポーツカーの名車、ロータス・エランを思い出してしまいそうなフォルムがいい。
なんとも気分をスカッとさせてくれる。ふくよかなフェンダーの張り出し、もっこりしたヒップなど、ユーノスは文句なくセクシーさをアピールしている。さながら小つぶな現代のグラマー美人なのだ。とにかく、写真で見た以上にカッコよく、かわいい。これがボクのファーストインプレッションである。
■スロットルの動きにスパッと反応!
谷田部に勢揃いしたユーノスは左ハンドルだった。というのは、試乗車はアメリカ仕様のためで、国内仕様が登場する前に、待ち遠しさでヤキモキしている我々ジャーナリストのための特別サービスというわけなのだ。といっても国内仕様は右ハンドルになるだけで、ほかはほとんど試乗車のままという。
ウキウキ気分が静まらないうちにコクピットに座ることになった。まずシートにヒップをおろす。それから体を回して両足をスルリとフットスペースにもぐり込ませる。シートレベルがグンと低いから、自然とこうなるのだ。コクピットは、さすがに広くはない。
FRスポーツカーの特徴ともいえる、プロぺラシャフトが通るフロアトンネルがコクピットのセンターを大きく占めている。が、このタイト感がいい。タイトといっても、ほどよいタイト感で、ステアリングやペダル操作に支障をきたすようなことはない。”スポーツカーを操る”そんな気分になれるのだ。
チルトステアリングをアジャストしてポジションを決める。ちょっと前に試乗したことのある、ニッサンのザウルスや、ロ―タス・セブンほど低姿勢ではないが、手足を伸ばし気味にしたスタイルは、スポーツカーならではのゴキゲンさ。
ペダルレイアウトも ”ヒール&トウのやりやすいもの。ユーノスは、全長4mに満たないコンパクトなヤツだ。そしてフロントミドシップ気味にエンジンを配置し、リアを駆動する。車重も960kgで、正真正銘のライトウェイトスポーツカーなのだ。
というわけで走りに期待がかかる。エンジンはとくにハイパワー仕様ではない。ファミリアをベースにしたB6-ZEで、直4DOHC16バルブ、1.6L。最高出力は116hp、最大トルク13.8kgm(SAEネット)というもの。このパワースペックは、現在の1.6Lスポーツエンジンに比べ、とくにパワフルではない。
ごく平均的なものだ。それゆえ、諸君には物足りなさを感ずるかもしれない。が、走らせてみると、ユーノスとこのエンジンの組み合わせはなかなかいいマッチングをみせた。正直いって、このボクも「これじゃあパワー不足だろう、走りもかったるいかナ」と思ったのだが。
軽量、コンパクトなユーノスは、このエンジンで充分満足できる動力性能をみせてくれた。それにはターボなどが装着されないNAなのがいい。
やっぱりこういうクルマは、スロットルにスパッと反応するダイレクトな動きがあってこそ。いくらパワーがあっても、ダイレクト感のないフィールというのはつまらないものだ。
エンジンのビートも、心地よく軽快なもの。レスポンスもバッチリで、高回転までスムーズに回ってくれる。たしかに強力だとか、強烈といったパワーの表現はできないが、ユーノスを楽しく、軽快に、そしてリラックスして走らせるには充分のエンジンである。
足は前後ともにダブルウィッシュボーンで、味つけは予想以上にソフトであった。しかも、仕上げとしてはとてもバランスよくまとめてあり、しなやかでコントロール性の優れたものだ。
ボクの予想では、乗り心地を犠牲にしても、シャープでスパルタンなフィールだろうと思っていたので、このマイルドなやんわりした味つけにはオヤッと感じたのも事実。ロ―ルも、ブレーキング時のノーズダイブも、ライトウェイトスポーツのイメージより大きいのである。
が、この足にほどよいパワーのNAエンジンの組み合わせは、しなやかで走りのバランスが素晴らしい、ナイスハンドリングカーとなっている。走るにつれ、そのリラックスしたハンドリングは、”なかなか味があるワイ”と思うようになったのだ。
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