今から20年くらい前は、「必ずやったほうがいい」といわれていた、新車の慣らし運転。しかしエンジンの製造精度ははるかに向上しています。「そんなの昭和の価値観だよ」と思う方もおられるかもしれません。では「令和」となった現在、本当にやらなくてもよいのでしょうか。自動車メーカーの元エンジニアである筆者が解説します。
文:吉川賢一 写真:AdobeStock
■そもそも慣らし運転とは
おさらいですが、「慣らし運転」とは、新車の納車直後の段階で、エンジンやトランスミッションなどの摺動部の初期なじみをつけるために、高負荷・高回転の運転を避けて、緩やかな負荷で走行することをいいます。
いきなり「急」が付く激しい使い方(急ブレーキ、急発進、急ハンドル)をすると、部品間にイレギュラーな荷重が入り、おかしな癖がついた状態で馴染んでしまいます。できるだけ、スムーズにアタリ・馴染みを付けることが出来ないと、異常振動や異常摩耗、クルマが本来の性能を出すことが出来ずにクルマの寿命を縮めることになってしまうのです。
特に昔は、現代よりも金属加工技術が高くなかったため、この慣らし運転の必要性が高かったのです。しかし現代は高い精度で作られているため「必要ない」という意見も多く聞かれます。
■自動車メーカーの意見はどっち?
では、自動車メーカー各社は“慣らし運転についてどのように考えているのでしょうか。
まずはトヨタ自動車。ホームページ上にある「よくある質問」では、
『Q. 慣らし運転は必要ですか?
A.慣らし運転の必要はありません。ごく一般的な安全運転に心がけていただければ、各部品のなじみは自然と出てきます。お客様が新しい車に慣れられるための期間を慣らし運転の期間と考えてください。』
https://toyota.jp/faq/after_service/others/0001.html
このように「ごく一般的な安全運転を行えば、人間にとっても慣らしになる」と記載されています。
次に日産自動車。ホームページには次のような記載があります。
『走行距離が1600kmに達するまでは、エンジン性能を最大限に引き出し、お車の信頼性と経済性が実現されるよう、次の推奨事項に従ってください。推奨事項に従わないと、エンジン寿命が短くなり、エンジン性能が低下するおそれがあります。
• エンジンの回転数を4000rpm以上に上げない。
• アクセルを完全に踏み込んで走行しない。
• 急発進は避ける。
• 可能な限り急ブレーキは避ける。』
http://www.nissan.co.jp/OPTIONAL-PARTS/E12_0605/E12/OM/CONTENTS/e12-jpn-120510-9d7b988a-7aac-4994-a4ec-3e5afc2009b4.html
このように、数字の目安を規定し「必要である」としています。しかし、内容をよく見てみると、アクセルペダルべた踏みや急発進、急ブレーキといった、一般的にはあまりやらないことが書かれており、トヨタが推奨する「ごく一般的な安全運転」と同じ趣旨と理解して問題ないでしょう。
■では慣らし運転は本当に必要ないのか
「慣らし運転が必要か否か」については、いろいろな意見がありますが、筆者は「必要」と考えます。その理由は2つ。「クルマの旨味を引き出すため」と、「あなたのドライビングスタイルとクルマとを相性付けるため」です。
前者は、クルマ(特にエンジン)は金属の塊ですから、たとえ部品が高精度で作られるようになった現代でも「慣らし」は必要と考えられます。ただ、特に(1000kmだとか半年間だとか)数値を意識する必要はなく、トヨタや日産が提示しているとおり、「ごく一般的な安全運転」でかまいません。
後者は、これから長く付き合っていくクルマに、あなたのドライビングスタイルを合わせ、命を預けることになるクルマの特性をしっかりと把握する必要があるためです。ウェットや雪道などの滑りやすい路面、傾斜のきつい山坂道、はたまた万が一の緊急回避運転など、クルマとドライバーが一体になることは、ドライバー自身や同乗者を守ることにつながります。性能のよくわかっていないクルマに命を預けたくはありませんよね。
どんなクルマでも、段階を踏んで練習していけばれば「人馬一体」に近づくことはできます。そして、そうして「クルマとの一体感」を感じていくことは、あなたのドライビングスキルや安全運転意識の向上にもつながっていくのです。
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