かつて一世を風靡したグループC。プロトタイプとよばれるクルマたちはその真っ平らに近いスポーティなルックス、そして1000psを超えるパワーでまさにクルマの究極形を求めたような存在でした。
もちろん当時のCカーは公道を走ることはかないませんでしたが、なんと日本が誇る機械加工のスペシャリストがナンバー付のフォーミュラカーを作ってしまった!!
しかもこれ、1台こっきりのコンセプトカーではなくオーダーがあればまた作って、しかも売ってくれるそうです! ベストカーが独占取材を敢行。
インテRの心臓を使った超絶スーパーカー、IF-02RDSを試乗レポートします。
文:橋本洋平 写真:池之平昌信
■シームレストランスミッションを生んだ熱意
これは下町ロケットか陸王か? 思わず池井戸潤の小説が頭に思い浮かぶ事態を東京モーターショーの片隅で目の当たりにした。
それは往年のCカーを彷彿とさせるスタイルのクルマに、なんとナンバープレートが付いていたのである。驚いたのはそれだけじゃない。
海外のバックヤードビルダーが造ったのかと思いきや、製造元は栃木県鹿沼市にある社員数25名というイケヤフォーミュラ社だというのだ。
同社は既存のミッションにポン付けするだけでシーケンシャルミッションに変身させてしまうチューニングパーツで名を馳せたが、実は足回りパーツからLSD、さらにはFJやF3なども造ってしまう機械加工のスペシャリスト。
けれども一体なぜこの時代にナンバー付きのスーパーカーを造ったのか? そこを池谷社長にまずは伺ってみる。
「これからの時代の自動車は明らかに自動運転やEVにシフトする方向にあり、個人が所有して欲望を満たすようなものではなくなるでしょう。それも時代の流れだから仕方がないと思います。
けれども、私たちが愛するクルマの世界は決してなくならないと思うんです。かつて馬は交通機関で活躍していましたが、そこを引退した後も人とともに走り、競走馬として今もなお生き残っていますよね。
つまり、人とクルマが新たな状況を迎える時、我々は厩舎のような存在になりたいと考えたんです。ドライビングというスポーツのためのクルマを生み出し、操ることを愛する人々とともに歩みたいとね」
こう熱く語る池谷社長は、得意分野であるトランスミッションの開発をはじめ、遂に世界のどこにも存在しないISTを完成させてしまう。
ISTとはIkeya Seamless Transmissionの略で、その名が示すとおり、駆動の途切れを一切なくしたシームレスな加速を展開するもの。
通常のMTをベースにシンクロの代わりにドグクラッチをギア間に備えることで自動かつシームレスにシフトアップするというもの。
シフトアップ時に次のギアが結合してミッションがロックする寸前、現状のギアが自動的に抜けることで、ミッションブローを起こすこともなく、またシームレスな加速も可能にしてしまうのだ。
「ISTは構造がシンプルで軽量であり、メンテナンスコストも安いということが特長です。しかし、それだけではなく、乗ってワクワクできる加速感があること、これがISTのメリットではないでしょうか。
加速時に途切れのない変速の楽しさは、まさに快楽として人間の本来持っている感性に合っていると思います。これはミッションでは想像できないものです。
この楽しさを実現するためにも自分たちの馬が必要だと思い、公道を走れるクルマを自らが造るという試練に立ち向かい形にしました。それがこのIF-02RDSです」
■ISTを味わうためのスーパーカー
ISTのよさをできるだけ多くの人に理解してもらうにはどうしたらよいのか? そこがIF-02RDSの出発点。
つまり、ナンバー付きのCカーを造りたかったわけではない。池谷社長が抱いていたこの思いはナンバー取得に対してもいい方向へ作用し、運輸省も実に協力的だったというから興味深い。
もしかしたら世界に羽ばたくミッションかもしれないと国交省が期待してくれたからこそIF-02RDSがナンバーを取得できたといってもいいだろう。
「クルマを造ることはさほど難しいことではありませんでした。ストリートラジアルタイヤを装着することが前提なら、我々がフォーミュラを制作したノウハウが活きるパイプフレームでも充分すぎる強度が持てますからね。
ただ、ナンバーを取得するとなると、規格に通ったガラスやダッシュボードが必要だったりと、クリアすべきポイントがいろいろとありました。関東運輸局とのやりとり、そして制作期間は3年くらい費やしてしまいましたね」
そんなIF-02RDSについに試乗。薄くて軽そうなFRP製のガルウイングドアを持ち上げ、いよいよコクピットに滑り込もうと試みるが中年太りまっしぐらにはややキツイ。
いかにもレーシングカーしとるな、なんて思いながらようやくコクピットに収まることができた。その体勢はまるでお茶の間の座椅子を若干倒して座っているようなものだから意外である。
コクピットは液晶パネルのメーターがオリジナルデザインで制作されており今風な感覚。助手席側に目をやると、驚いたことに空調パネルがしっかり備わり、エアコンも装備されているらしい。
早速キーをひねってエンジンをかけるとインテグラタイプR譲りのK20Aが目覚める。このエンジンにターボチャージャーを装着して約350馬力を発生する。
右側に備わるシーケンシャルシフトを手前に引き、いよいよ発進に備える。ちょっと重めのツインプレートクラッチは、発進時とシフトダウン以外は踏む必要がない。
走り始めると背後から”キュイーン”という駆動系の音がまず感じられる。さらにはヴォーンと元気のいいエンジンの音がダイレクトに入ってくるが、ホンダのVTECの割にはかなり重低音なイメージ。
ターボ化されたこと、さらにはレギュレーションに沿わせるために大きなサイレンサーを投入していることがそんな音色にしているのだろう。だが、いずれにしてもかなりレーシーな感覚だ。
その後シフトアップを次々に繰り返す。やや重めの操作感があるシフトを手前に弾くと、たしかに駆動が途切れる感覚はない。
そのかわりに低速ギアからのアップではカクン、カクンと蹴り飛ばされるような振動が襲ってくる。エンジン側の制御をより煮詰めればそれも消せる方向らしいが、それが必要だろうか?
■今後はV10搭載で1億円で発売の予定も!?
キャラどおりの爽快でレーシーな乗り味はかなりの快感。丸みを帯びたフロントスクリーンからの景色はいつもと違い、気分はル・マンのユーノディエールを走り抜けていく感覚(行ったことも走ったこともありませんが)。
それくらいレーシーな気分にさせてくれるところは面白い! 街乗りっぽくJARI(日本自動車研究所)の構内を走ったが、意外にも車幅感覚が掴みやすかった。
ついついISTが気持ちよくてシフトのアップダウンを意味もなく繰り返してしまうが、ほんの時速50キロであったとしても、シフトもコーナーリングも軽快で楽しいところが好感触だ。
「ISTのよさってもっと高回転エンジンだと際立つと思うんです。だからオリジナル4LのV10エンジンの制作プロジェクトも開始しました。市販化へ向けての耐久性のハードルなどもかなりあるでしょう。
でも、長期にわたる計画でスポーツドライビングに特化したクルマを造って、育てていきたいと思いますよ」と池谷社長の夢はまだまだ終わらない。
実はそんな姿勢に興味を示したのは我々だけじゃない。乗用車メーカー、トラックメーカー、さらにはスノーモービルや船舶の世界からもISTの引き合いが始まったらしい。ISTが世界に羽ばたくのも時間の問題かもしれない。
この流れ、やっぱり小説を書いてドラマ化すべき。池井戸潤様、ぜひともご検討を!!(マジ)。IF-02RDSと池谷社長の情熱はそこまで胸が熱くなるほどの存在だった。
さてこのIF-02RDSの価格は3000万円。すでに十数件のオーダーが入っているという。欲しい人は急げ!!
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