徳大寺有恒氏の美しい試乗記を再録する本コーナー。乗りやすいフェラーリとして好評を博した328の後継モデルとして誕生した348。
300psの大台に乗ったV8、3.4Lエンジンに加えエンジンが横置きから縦置きになり、重心を落としたことで運動性能を高めた新生フェラーリ。NSXのライバルとしても大いに注目された’90年5月26日号の試乗記を振り返る。
※本稿は1990年5月に執筆されたものです
文:徳大寺有恒
ベストカー2016年5月10日号「徳大寺有恒 リバイバル試乗」より
「徳大寺有恒 リバイバル試乗」は本誌『ベストカー』にて毎号連載中です
■唯一無二のエンジンフィール
フェラーリのエンジンフィールはフェラーリ以外では絶対に手に入れることはできない。そいつは自動車エンジンとしての機能を100%満たしつつ、かつアーティフィシャルな音を出す。
スムーズなことはこれ以上なく、強力なこともこれ以上ない。一体、どうしてこのようなパワーユニットができるのだろうか?
こいつは単なる工業製品であることを超えている人間が作った最もすばらしいアートのひとつといってもいいだろう。
ニュー348tbの3.4L V8エンジンはたぐいまれなほどのスムーズネスと軽々と8000rpmまで回り、そのうえどこからでも強いトルクを発揮する。それは回転の上昇とともに高揚し、やがてエクスタシーに達するというヤツだ。
フェラーリは間違いなく世界のモータリストの憧れである。言っておくが、このクルマとポルシェを一緒に語ってはいけない。まるで別物だ。
そのフェラーリの最新主力モデルが348で328の後継となる。
■デリケートな面の構成は見事
フェラーリ348のデザインは328に比べるとやや悲観的な見方がされている。しかし、青天の下で見る348はいかにもピニン・ファリーナ、いかにもフェラーリらしいスタイルであった。
たしかに彫りの深さという点では、328が勝っているが、348のデリケートな面の構成はそんじょそこらの生産車とはまるで違っている。国産車の合理化されたデザインとプレスワークとは根本から違った自動車のボディなのである。
特に斜め後からのルックスがいい。フロントからリアにかけてのファリーナお得意のフェンダーライン、そしてそのトップにはごく軽いエッジがついている。ともかく一刻も早く乗ってみようじゃないか。
■レブカウンターの上昇に至福が拡がる
348のクラッチは驚くほど軽い。ごく普通の乗用車なみだ。そいつをグイと踏んでシフトレバーを手前下へ移動させる。
こいつがスムーズではない。フェラーリのシフターはトランスミッションが温まらないと、引っかかりがあるが、このクルマはセカンドが最後まで引っかかった。これもけっこう多いのだ。
かつてフロントエンジンのフェラーリはすばらしいシフトフィールを見せたが、ミドシップになって以来、けっこう引っかかりがある。そこでドライバーは正確にクラッチを踏み、エンジンの回転に気を遣いながらのシフトとなる。
ギアが目的のところへシフトされたなら、もう遠慮なくガスペダルを踏めばいい。こいつを強く踏めば、ドライバーの背中はバックレストに押しつけられ、レブカウンターとスピードメーターは期待通りの上昇を見せる。
こいつは至福の時だ。高回転エンジン特有の息の長い加速を味わえる。おそらく日本では高速道路で使うことになるサードギア、フォースギアの全開加速は気持ちいいの一言に尽きる。
■“らしさ”は薄れたがその魔力は揺るぎない
348はありとあらゆるところ、328をリファインしている。居住性、乗降性も328より上だ。むろんエンジンの柔軟性は格段に優れハンドリングも中庸を得ている。
おそらく近代化された工場により、信頼性が高まっているに違いない。その意味において348は間違いなく現代のクルマなのだ。
しかし、私は348に接した今も328を忘れられずにいる。348と328の違い、それはフェラーリらしさという魅力を放つ328とそれがやや薄められた348といえる。
これが時代というものだろう。あるいは、シャシポテンシャルの上がった348がより強力なパワーユニットを得ると、348シリーズとしてフェラーリらしさを取り戻すかもしれない。
フェラーリに乗ることは楽しいが、やがて、どうしても欲しくなる。その点は348も同じで魔力は揺るぎのないものだった。
◎フェラーリ348tb主要諸元
全長:4230mm
全幅:1895mm
全高:1170mm
ホイールベース:2450mm
エンジン:V8DOHC
排気量:3405cc
最高出力:300ps/7000rpm
最大トルク:31.6kgm/4000rpm
トランスミッション:5MT
サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン
当時の価格:1700万円
登場年:1989年
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