徳大寺有恒氏の美しい試乗記を再録する本コーナー。今回はスバルの2ドアクーペ アルシオーネを取り上げます。
富士重工(現在のスバル)がアメリカ市場参入を果たした記念的なモデル。「アルシオーネ」の名前はスバルの6連星のなかでもっとも明るい右から2番目の星=アルキオネに由来します。
1985年9月のプラザ合意による急激な円高のため、以降のアメリカ市場では苦戦を強いられましたが、名車として名高いアルシオーネSVX(1991年)、そしてのちのレガシィ大ヒットの礎となりました。
そんなアルシオーネ、1985年の徳さんの試乗記をリバイバル。
※本稿は1985年に執筆されたものです
文:徳大寺有恒
初出:ベストカー2015年4月26日号「徳大寺有恒 リバイバル試乗」より
「徳大寺有恒 リバイバル試乗」は本誌『ベストカー』にて毎号連載中です
■アルシオーネのスタイリング
アメリカという国はクルマの消費に関してはものすごいところだ。
我々、日本人の一部のカーマニアが喜んでいるZカー(フェアレディZ)をはじめとしてスープラ(セリカXX)、シビック・クーペ(バラードCR-X)、RX-7などはすべてアメリカのユーザーが買ってくれるからこそ、存在しているのだ。
スバルがアメリカで人気を得はじめたのは、初代レオーネあたりからで、ほとんどの日本メーカーが西海岸に本拠を置くのに対して、富士重工は東海岸に本拠を構える。そのせいで、スバルのレオーネは東部で人気が高い。そしてサーブがちょっとインテリ層に人気があるように、スバルはアメリカではちょっと違った層が支持しているのだ。
そして、アメリカのマーケットで、より儲けがあり、スバル全体のイメージの向上につながるモデルの投入を決断した。それが、スバルXT、日本名アルシオーネである。このクルマは純粋にアメリカ向けであり、その企画にもLAにあるスバル・テクニカル・センターの意見が強く入っている。
アルシオーネの最大のポイントはいうまでもなくスタイルにある。ベースはレオーネであり、パワートレーンに新しいものはない。4WDにスタイリッシュなクーペボディを与えるということが、このクルマのコンセプトである。
とにかくCd値0.29(4WDは0.32)を持つ超空力ボディは目立つ。まるで宇宙映画に出てくるようと表現したらいいのだろうか。しかし、真横から見た時にはホイールベースが短く、前後のオーバーハングが長すぎる。さらに後ろから見るとタイヤとホイールがボディに入り込んでいる。この基本シャシを使うなら、なにも無理をして大きなボディを与える必要はなかったのではなかろうか。そして全体のフォルムはきついウェッジである。
最初に意図したものは純粋ですばらしいものであったろうが、いろいろな条件を加えてゆくうちにアンバランスになっていったのかもしれない。デザインは個性的ではあるが、煮つめられたとはいいがたい。
インテリアもすごい。メーカーは質感の高さをアピールするが、私はむしろ楽しいアイデアがあることを認めよう。スティアリングホイールのテレスコープ、それにメーターナセルごと上下するチルトシステムなど面白い仕掛けがある。しかし、スティアリングとダッシュボード間の両翼にあるサテライトスウィッチは質感がなく、使いにくい。
こういうクルマにとって遊びの精神は大いに必要である。しかし、それはグッドセンスに表現してほしい。
それよりも、これくらいやるならもっとシートを低くしていわゆるスポーツカースタイルを強調してほしかった。それにはエンジンフードの上端をもっと低くする必要があるワケで、それが大いにたいへんなのだが……。
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