内燃機関の進化はまだまだ止まらない!
日産が量産車として世界で初めて実用化したVCターボエンジンが、インフィニティQX50に搭載され、北米や中国で発売された(日本では未発売)。
VCはVariable(=可変) Compression(=圧縮比)の略。文字通り、可変圧縮比を実現した画期的な新エンジンの驚くべきは、トルク・燃費ともに従来のエンジンを圧倒するスペックを実現しているという点だ。なんとトルクは代替を想定する3.5LのV6エンジン比で約15%増、そして燃費は約30%も優れるというのだ。
世界初の可変圧縮エンジンを積んだクルマは、一体どんな走りをみせてくれるのか? インフィニティQX50国内初試乗で、その真価を問う!
文:渡辺敏史
写真:森山良雄、NISSAN
ベストカー 2018年12月26日号
量産車初の可変圧縮エンジン 実は20年前から研究されていた!
気筒内の圧縮比を用途負荷に応じて可変させることで、最大限の効率を絞り出す。
言うは易しだが、世界の自動車メーカーが数えきれないほどの挫折を積み重ねてきた可変圧縮比ガソリンエンジンの研究成果を日産が公表したのは2005年のことだ。
聞けばそのさらに以前、1998年から研究に着手していたというから、足掛け20年近くの開発期間を経た2017年冬、KR20DDET型ユニットとしてその成果は結実した。現在はインフィニティ QX50に搭載され、米中といった主要市場で普通に販売されている。
と、ここで疑問に思うのは、足掛け20年にも渡る研究期間だ。1990年代後半の日産といえば会社は火の車で、ルノーの資本傘下に入ろうかというタイミング。普通ならこの時点で研究は凍結もしくは終了とされていてもおかしくはなかっただろう。
「当時を知るエンジニアに話を聞いたところでは、研究成果と試作品を携えていち早くゴーンさんにプレゼンしたんだそうです。そこでとても興味をもってもらえたと」
と、開発エンジニア氏曰く。さすがに当時のゴーンさんが確信をもってこれをモノにするつもりだったとは思えないが、日産の経営に携わり続けたなかでこのエンジンの産声を聞いたというなら、それはロマンティックな話ではある。
「トルク約15%増、燃費30%増」を実現したエンジンのカラクリ
可変圧縮比を実現する仕組みは、クランク軸の横側に配した電動アクチュエーターによって、コンロッドに接続されたリンクを動かし、コンロッドの先にあるピストンの上端位置を動かすというもの。
エンジン内でどうやって圧縮比を変えるのかという目的に対しては、コンロッドの位置を物理的に動かすという最も直球な手段を採っているわけだが、もちろんこれは一筋縄でいくものではない。
まず現物的な話をすれば、アクチュエーターからピストンの間にある4つのリンクのうち、コンロッド以外の強度や精度の確保は難しく、組み付けにも熟練の業が求められる。
可変圧縮比の動力源となるアクチュエーターは、内燃機の摺動に負けないトルクを発せなければムービングパーツに挟まれながらストロークを変更することは難しい。これらを克服するにはリンクやモーターギアなどを供給するサプライヤーやエンジン生産側の協力が不可避だったという。
加えて電気的な話としては、いついかなる負荷時に圧縮比を変えるのか、それに合わせて燃調やブースト圧などをどう制御するか……と、そこに回転数の上下が負荷で不規則変動するというCVTとの組み合わせも相まっての制御マップの作り込みは、シミュレーションではどうにもならない、想像を絶する難しさだったそうだ。
このあたりを解決するのは夢の技術の開発とは思えないほどドロドロの人力勝負、つまり地道な走り込みの積み重ねだという。
結果的にKR20DDETでは実測値にして最大6mmほどピストンの上死点位置が動くことになる。これは圧縮比に換算すれば8.0~14.0の間を常に変動することになるわけで、いってみれば低圧縮側では高パワー&トルクのターボエンジンを、高圧縮側では超リーンバーンのNAエンジンをと、両方の性格をひとつのエンジンで実現しようというわけだ。
スペック的には2L直4直噴ターボにして最大出力が272ps、最大トルクが390Nmとなり、これは日産が代替を想定する3.5L V6のVQ35DEユニット(日本ではエルグランド等に搭載)に対してトルクで約15%、燃費で約30%勝る計算になるという。
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