フォーミュラ1(F1)のタイトなスケジュールの中、レース用の資機材を確実に運ぶ輸送は「レース間のレース」とも評される。F1の公式ロジスティクス・パートナーであるDHLは、今シーズンの機材輸送(欧州区間)に18台のバイオ燃料トラックを導入しているが、これによりCO2排出を8割以上削減したことが発表された。
モータースポーツによる排出は不可避ではなく、F1は今回の結果を分析した上で2030年の「ネットゼロ」を目指している。その背景にはモータースポーツを通じたより広範囲の社会・環境への貢献もあるようだ。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
画像/Formula One World Championship Limited・DHL・Daimler Truck AG
F1の機材輸送にバイオ燃料トラック
世界最高峰の自動車レース「フォーミュラ1」(F1)と、そのオフィシャル・ロジスティクス・パートナーを務めるDHLは、より持続可能なレースのために2023シーズンの資機材の輸送でバイオ燃料トラックを導入している。両者はこの度、それによるCO2排出量の削減効果は、欧州区間の平均で83%だったと発表した。
DHLによるとF1のレースを開催するのに必要な機材は、重量にするとレース1回あたり平均で300トンに及び、欧州9ラウンド間の移動距離は10600km以上。その貨物輸送をバイオディーゼルトラック18台で支えたという。使用した燃料は、100%バイオ燃料の「HVO 100」ドロップイン燃料だ。
HVOは「水素化植物油」とも呼ばれ、廃食油などの植物油を水素と反応させることで製造する再生可能燃料で、軽油と同じようにディーゼルエンジンで燃焼させることができる。従来のバイオ燃料は軽油と混合して用いるのが一般的だが、HVOの性状は軽油に近く単独で用いることが可能だ(HVO100燃料)。
また、再生可能燃料であっても水素やアルコールなどをエンジンで燃焼させるためにはエンジン本体の改良が必要となる。ディーゼルエンジンやガソリンエンジンなど従来のエンジンでそのまま燃焼可能な燃料を「ドロップイン」燃料と言い、バイオディーゼルや合成燃料(eフューエル)の利点となっている。
ドロップインでHVO100燃料を使用するトラックは、積載量や航続距離などの側面でもディーゼル車と同等のパフォーマンスを発揮するため、使い勝手が変わらないまま脱炭素を進めることができる。
F1の輸送を担うDHLのフリートはこれに加えて各車がGPSを装備しており、個別に燃料消費量をモニターし、走行ルートの最適化を行なっている。欧州連合の承認を受けた認証機関は、これらによる全体としての炭素排出量の削減効果を83%と試算した。