米国のカミンズといえば、日本でもいすゞ自動車に中型用エンジンを供給することで注目を集めているが、そのカミンズがこのほど燃料に依存しない次世代プラットフォームを採用する15Lディーゼルエンジンを発表した。
2027年に適用開始される予定の米国の新排ガス規制にも対応可能だという新エンジンは、マルチ燃料への対応に加えて、トランスミッションや駆動軸などパワートレーン全体で最適化を行なった「統合型」の開発も特徴となっている。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/Cummins Inc.
カミンズの大型トラック用新世代エンジン
2024年2月29日、米国のエンジンメーカー、カミンズは同社史上最高効率を謳うディーゼルエンジンを発表した。北米のオンハイウェイ大型車(=大型トラック)用の新「X15」型エンジンシリーズだ。
燃料に依存しない「HELM」プラットフォームによる排気量15L級のディーゼルエンジンで、新世代のエンジンは米国で2027年から適用開始される予定のEPA(米国環境保護庁)/CARB(カリフォルニア大気資源局)規制にも対応するという。
カミンズの北米オンハイウェイ事業担当副社長のジョセ・サンペリオ氏は次のようにコメントしている。
「私たちは、この数十年の経験の全てを次世代X15型エンジンに注ぎ込みました。この投資がお客様のより良い未来に資するものと確信しています。新X15型エンジンは新たな技術革新であり、私たちが決してイノベーションを止めないということを、世界に証明するでしょう」。
1998年にX15型エンジンを発売して以来、同機は商用車ユーザーである顧客の様々な要求に応えるべく、信頼性の確保と運行コストの低下を目指して来た。次世代X15型では、レーティング(馬力は605hp、トルクは2050ft-lb = 2790 Nm)を維持した上で、温室効果ガスの排出削減と燃費効率の向上を果たした。
これに貢献しているのがイートン・カミンズおよびカミンズ・メリトールによる「パワートレーンの統合」だ。ディーゼルエンジン単体での性能向上は限界に近く、トランスミッションや駆動軸などを含むパワートレーン全体としての最適化を施すことで、エンジンのパフォーマンスを最大限に引き出した。
燃料に依存しないエンジンプラットフォーム
このエンジンは、カミンズが提唱する「HELM」プラットフォームに基づいている。「高効率・低排出」(Higher Efficiency, Lower eMissions)から名付けられたHELMは、燃料アグノスチックな(つまり、燃料に依存しない)エンジンを目指したもので、簡単に言ってしまえば水素や天然ガスなど軽油以外の燃料にも対応できる共通のプラットフォームをつくるという考え方だ。
HELMに基づくベースエンジンから、共通パーツを利用しつつ異なる燃料に対応するエンジンを派生するというコンセプトで、特にエンジンのヘッドガスケットより下は大部分が共通コンポーネントとなっており、上部を変えることで異なる燃料に対応するという設計になっているようだ。
新世代のX15型では、天然ガスエンジンの「X15N」がHELMプラットフォームによる最初のバリアントとなる。また、大型車用のX15型のほかに、いすゞ自動車の「フォワード」への搭載が発表されている中型車用「B」シリーズや、「X10」シリーズエンジンにもHELMプラットフォームを展開するそうだ。
(いすゞとカミンズは2019年にパワートレーン分野で包括提携し、中型車にカミンズのエンジンを搭載することが2021年に発表されている。海外向けの「F」シリーズにはB6.7型エンジンを搭載するが、国内の「フォワード」への搭載はやや遅れている。国内生産車の用B6.7型エンジンは、いすゞが日本でライセンス生産する予定)
また、いわゆる低炭素ディーゼル燃料に対応することも新型エンジンの特徴となっている。最大20%のバイオ燃料を含む混合燃料を燃焼可能とし、軽油と同等の性状とした「再生可能ディーゼル」なら100%燃料でも動作する。
こうした再生可能燃料の利用に関してカミンズは先駆者であり、バイオ燃料などの混合比率を高めて来た。低炭素ディーゼル燃料は、今日のインフラをそのまま利用しながら大型車によるCO2排出量を削減できるという利点がある。