ドイツのMANトラック&バスは商用車メーカーとして初めてアウトバーンでの「レベル4」自動運転のライセンスを取得し、試験走行を行なった。自動運転トラックにはドイツの運輸大臣も同乗した。
日本と同様、ドイツでもトラックドライバー不足が深刻で約10万人のドライバーが不足しているという。自動運転技術はこうした社会課題を解決する可能性を秘め、MANは所属するトレイトングループと共に積極的な開発を進めている。
文/トラックマガジン「フルロード」編集部
写真/MAN Truck & Bus SE
大型トラックでレベル4自動運転
ドイツの大手商用車メーカーでフォルクスワーゲンの商用車部門であるトレイトングループに属するMANトラック&バスは、アウトバーン(ドイツの自動車専用道路)でレベル4(L4)自動運転大型トラックを走らせた最初の自動車メーカーとなった。
2024年4月18日、MANは同社の大型トラックを用いた高速道路における初のL4試験走行に、ドイツ連邦運輸・デジタル大臣のフォルカー・ヴィッシンク氏と、MANのアレクサンダー・フラスカンプCEOが同乗したことを発表した。
ルートはアウトバーンA9線のアラースハウゼン・フュアホルツェン間の約10kmの区間だという。
自動運転トラックの開発を積極的に進めているMANは、特に高速道路を使った物流拠点(ハブ)間の輸送(ハブtoハブ輸送)への適用を目指している。
ドイツでは近年の法改正により一定の条件下で高速道路での無人運転が可能になり、4月初めに商用車メーカーとして初めてMANにL4運転(特定の条件下での完全自動運転)の許可が与えられていた。
「物流ハブ」は例えばオンラインショップの大型倉庫などが該当し、ハブ間の貨物量は著しく増大している。自動運転技術はこうしたハブtoハブ輸送に適した技術とされ、トラックを常に道路上で動かし続けることができるため、経済性や安全性などの観点から極めて効率的な運行が可能になる。
人間のドライバーのように、運転時間に係る規定(日本の「4時間の運転に付き30分の休憩」など)が無いため、非常にタイトな輸送プロセスに組み込むことができるからだ。自動運転トラックを効率的に運用すると、長期的には全体の輸送コストを10~15%低減可能だという。
日本と同様、欧州でもトラックドライバーには法定休憩が義務付けられている(「4.5時間の運転に付き45分の休憩」など差異はある)。また、「トラックドライバー不足」は日本・欧州のみならず、世界に共通する課題で、ドイツ国内だけで最大10万人のトラックドライバーが現時点でも不足しているそうだ。
L4自動運転は、こうした社会課題の解決に向けて、商用車で本領を発揮する技術となっている。
MANは自動運転の開発で長年の経験を持つ
実際、MANは多くの研究開発プロジェクトを通じて自動運転技術の実用化に早くから取り組んできた。
2017年から2019年にかけて、運送会社のDBシェンカーと共同で電子的に連結されたトラック(隊列走行)の試験を行なった。
自動運転技術によるトラックの隊列走行は「プラトゥーニング」(Platoon = 「小隊」が語源)とも呼ばれ、安全性や燃費効率において利点がある。この試験もアウトバーンのノイファールン・ニュルンベルク間で6か月に渡り行なわれた。
2019年から2023年まで、道路と鉄道の連携輸送に自動運転技術を活用する「ANITA」プロジェクトをドイツ鉄道や大学と共同で実施した。
そして2022年からは高速道路を使った物流ハブ間の輸送を自動で行なうL4自動運転トラックの開発を目指して「ATLAS-L4」プロジェクトをアウトバーンと共同で進めている
プロジェクトが活用しているのが、ドイツで2021年に可決された自動運転法で、同法は事前に決められたルートにおいて一定の技術的監視のもと、無人で自動車を運行することを認めている。
このプロジェクトにおいては安全のためのドライバー(セーフティ・ドライバー)が搭乗した上でプロトタイプ車による実践的な試験走行を行なう。
MANはこれまでに自動運転分野で133の特許を出願しており、その内33件はすでに認められている。また、バスにおいても都市バスの自動運転プロジェクトに参加するなど、積極的な開発に取り組んでいる。