「クルマの未来は明るい…か?」大学生たちが見たジャパンモビリティショー2023

■「モビリティの”価値”は何に宿るのか」谷 昇(慶應義塾体育会自動車部)

「モビリティ」と聞いてなにを考えるだろうか。

「Mobile ability」から成る「Mobility」という言葉は、移動する行為を指す語と、可能性・能力を指す語からなっている。直訳すれば「移動可能性」であり、転じて自動車業界では「移動可能性を与えるもの」という意味で使用されているようだ。

「これから私たちはモビリティ・カンパニーへの変革を目指していく」というトヨタ自動車・佐藤恒治社長の宣言のなかでの「モビリティ」は、いったい何を指すのだろうか。

トヨタブースではスポーツカーから商用トラックまで、近未来のモビリティを満遍なく展示した
トヨタブースではスポーツカーから商用トラックまで、近未来のモビリティを満遍なく展示した

 ジャパンモビリティショー2023を巡ってみて、私は「モビリティ」にまつわる2つの捉え方と発展の方向性を発見した。

(1)Mobility=移動可能性を与えるもの、と捉え、この移動可能性を人々へさらに与えるもの…例えばスバルの空飛ぶクルマであったり、街中で人々の徒歩に代わって利用される電動スクーターであったり、三菱のデリカコンセプトであったりである(ちなみにスバルブースの空飛ぶクルマも、三菱ブースに鎮座するデリカコンセプトも、迫力と未来性を前面に出しており間違いなくジャパン「モビリティ」ショーだからこそ存在する魅力がそこにはあった)。

(2)Mobility=Mobile+Abilityと捉える。要するに、移動とその際にできる物事を指し、移動における「ability」、つまり「できる物事の可能性を増やすもの」である。「Tokyo Future Tour」で登場したような、移動中にモビリティ内の設備を用いて音楽ライブを楽しんだり、勉強できるのは、まさにそれにあたる。

 近年たびたびみられる発展の方向性として、車内におけるドライバー並びに搭乗者の負担を減らし、彼らを楽しませるクルマの提案があるが、これはまさに移動におけるabilityを追加する方向性での進化といえるだろう。

 この2種類のベクトルは、どちらも将来的な実現可能性があって、我々をワクワクさせるものであることは確かである。

 空飛ぶクルマが宙を飛び交う社会は、かつての我々が考えていた未来社会そのものであるし、移動中のモビリティ空間で音楽ライブを楽しめるとなれば、移動における苦痛はむしろ楽しみに変わり、移動のイメージが大きく向上するだろう。

 しかしながら、私はここにおいて自動車業界は一つの大きなポイントを見落としていると考える。

 それは、そのような未来社会における「移動の価値」は担保されているのだろうか、という点である。はたして、人々は「移動」を必要とする社会に生きているのだろうか? 移動そのものの価値がどこにあるか、我々は再考する必要がある。

 コンセプトとしての移動の未来像は、各会社が持っているとおりだろう。人々が苦労なく移動し、かつ早く手軽にそしてエコフレンドリーに、といったもので間違いはないと思う。

 しかしながら私は大胆に宣言しよう。

 何十年たっても、人々は徒歩をやめない。わざわざ徒歩で済んでいる移動に、モビリティが介在する余地はない。自転車で済む移動は自転車が行う。明らかに徒歩でいいのに、そこをモビリティでとってかわる、自転車でいい移動を、単なる新しい形の電動移動器具でとってかわる、そういった方向で業界が新しいモビリティの形を探るのは、少々もったいない。

 電動で開く傘があるとしても、それを利用する人は今までもこれからもいない。それと同じである。

 一時、セグウェイといったモビリティ(個人用電動並行二輪車)が世間を騒がせたが、いま街中で誰がセグウェイに乗っているのか。安直に人間に関わる移動すべてに対して、モビリティが取って代わると考えているのなら、その未来像は少々ずれている。

 そこにモビリティの価値が存在するわけではない。

 現在並びに未来の日本、そして世界は、移動の価値性を保ち、それを大事にするモビリティを熱望している。移動の価値を見極める点に、自動車業界の未来がかかっている。

 では私がジャパンモビリティショー2023を巡って感じた「モビリティの未来」はなにか。それは「個性」である。

 モビリティの未来は個性にある。この「モビリティの個性」が、移動に価値を与えるのである。

 モビリティは個性あふれるものへと今後ますます進化する。1769年に生を受けた「自動車」は、その枠を越えて多様化し、個性を誇示させている。モビリティは単なる移動する手段ではなくなり、移動にともなう自己表現となる。モビリティの個性が加速するのである。

 この文章を読んでいるあなたは、ぜひ考えてほしい。恐らく「クルマ好き」のあなたは、どんな「クルマ」が好きだろうか? その「クルマ」は快適で、経済的で、合理的である代物だろうか。絶対に違う。その「クルマ」が持つ個性に、あなたは愛着をわかせ、そして(だからこそ)あなたの移動に価値を与えているのではないだろうか。

 いま現在、モビリティとして生を受けた‘’クルマモドキ’’に、メーカーは個性を与えていない。よって個性のないモビリティによる移動に価値は発生しない。

 今後生まれてくるだろう数々の「モビリティ」に、愛される個性が与えられますように。そして移動の価値がこれからも人々の中にありますように。

 最後に、一介の大学生が非常に生意気なことにこのような記事を書き、読者の皆さんに一抹の反感を買ってしまったら謝罪させていただきたい。このたびは大変申し訳ございませんでした。

 ただ、私もホンダのインテグラに乗っており、日々ドライブを楽しみ、行く先々で愛車の写真を撮り、誰よりも洗車をする、皆さんと同じ生粋の「クルマ好き」の一員である。世間知らずの若者が、今後の日本の自動車業界を憂いてこの記事を書いていることを理解していただきたい。

次ページは : ■「クルマに興味がない人も楽しめる未来」小笠原 伶(慶應義塾体育会自動車部)

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