■「クルマに興味がない人も楽しめる未来」小笠原 伶(慶應義塾体育会自動車部)
今回、ジャパンモビリティショーを訪れて、今までの東京モーターショーとは大きく変化したと感じた。これは、単に名前が変わったということだけではなく、各企業の展示内容や全体としての構成が変わったということである。その中で2つの大きな変化について取り上げたい。
ひとつめの変化はクルマからモビリティへの変化である。
私は、物心ついた頃より毎回東京モーターショーへ訪れていたが、以前はクルマに主眼を置き、各ブースではコンセプトカーや新型車両の展示が行われていた。もちろん、クルマ好きな自分にとって大変魅力的なものであった。
しかし、今回からはクルマという枠にとらわれず、クルマを含めたモビリティに焦点を当てた展示となっていた。これにより、小型なモビリティの展示もみられたほか、「クルマもあくまでモビリティの仲間である」という見方は大変画期的に感じられた。
「Japan Future Session」などにおいても、あくまでクルマとは言わず、モビリティという言葉でセッションが行われていたこともそれを象徴しているといえるであろう。
2つ目は展示内容の変化である。今回のツアーでは、はじめに「Tokyo Future Tour」を訪れた。ここでは、東京モーターショー時代にはなかった体験型・没入型の発表が行われていた。
大きなスクリーンやモビリティを用いて「未来の東京」を描いており、とても面白い展示であった。これは、今まで東京モーターショーを訪れていた人にとっては大変インパクトのあるものであっただろう。
また、(この手のイベントに)初めて訪れた人やあまりクルマが好きでない人にとっても楽しむことができるものであろうと感じた。
こうした展示は、昨今「クルマ離れ」が嘆かれているが、モビリティ志向という形で幅広く注目を集めることができる可能性を感じ取った。
そうした一方で、各企業のブースでは以前に似た形でモビリティの展示や発表が行われており、懐かしさを感じることができたことも、以前の来場者を楽しませることもできるという点で素晴らしいと感じた。
こうした大きな2つの変化から、モビリティの未来はクルマに限られたものではなく、すべての人が使用できるものであるのだというビジョンを受け取ることができた。
しかしその一方で、空飛ぶクルマや小型モビリティについては、法整備や使用用途の面などさまざまな課題が残されており、今回のモビリティショーで描かれた未来が実現できるかは不透明であり、これについては今後の発展に期待したい。
■「クルマがモビリティの中心であることは不変…か…?」小熊 雄太(日本大学/ベストカー編集部アルバイトスタッフ)
「第1回」となったジャパンモビリティショー。長らく続いたモーターショーからモビリティショーへと名称が変更されただけに、開幕するまでは「脱・クルマのイベントなのかな?」なんて少々不安な気持ちを持っていた。
しかし、いざ会場を見て回った感想は「多様なモビリティはあっても、クルマ色が強かった」というものだった。
クルマが好きな人間としては、素直にホッとしたし、少なくともあと数十年は、クルマがモビリティの中心となっていくのではないかな……そう感じた次第である。
今回、特に目立つ存在だったのが軽商用のBEV。ダイハツ「ユニフォームカーゴ/トラック」やホンダ「N-VAN e:」、スズキ「eエブリイコンセプト」などなど……。さらにはスタートアップも数社が軽商用BEVのコンセプトモデルを展示していた。
物流業界でもカーボンニュートラルの取り組みが急加速しており、三菱自動車も軽商用BEVのミニキャブMiEVを一度生産終了したにもかかわらず、昨今の需要の高まりにより復活させたほど。
物流界の「ラストワンマイル」とも言える軽商用車だけに、台数も多くビジネス的な視点で見れば大口顧客の獲得も見込める。現実的なカーボンニュートラルへと向けた手段として切磋琢磨しあっている今、最も注目したいジャンルではないだろうか。
いっぽう、乗用車ブースに限らず、数あるモビリティを見た中で最も印象に残った1台が、スズキがインド向けに開発した「ワゴンR・CBG(Compressed Biomethane Gas=圧縮バイオメタンガス)車」だった。2023年5月に広島で開催されたG7サミットで初展示された1台だが、何がスゴイかというと「牛糞をベースとした燃料で走行する」というところ。
もう少し具体的に説明すると、CO2の28倍の温室効果を持つメタンが含まれているという牛が排泄した糞尿を回収する。このメタンをプラントで燃料として精製することで、燃料として活用できると同時にメタンの大気放出抑制を実現することができる。この燃料を使用するクルマが輩出したCO2は植物に光合成され繰り返す「循環型」が出来上がる仕組みなのだ。
金曜日(10月27日)に行われたトークセッション「カーボンニュートラル×モビリティの未来」に登壇したスズキの鈴木俊宏社長は、
「インドに牛は約3億頭いて、10頭の牛糞で1台分の燃料に相当する。インドの自動車保有数は約4000万台なので、そのうちの75%に当たる3000万台がこの燃料で賄えるようになる」
と語っていた。
実際に、2023年9月にはスズキとインドの全国酪農開発機構、そしてアジア最大規模の乳業メーカー「Banas Dairy社」との三社で合意し、2025年のバイオガス生産プラント設置を明言するまで動き出している。
「EVシフトが絶対」といった論調をいまだに結構な頻度で見かけ、「日本はEVシフトに乗り遅れている」といった煽りも見聞きする。
しかしながら、地域ごとのインフラの差やクルマの使われ方に大きな差があることからも、メーカー・行政の自己満足にならないで、顧客にもメリットがありながら取り組みを進めていくことこそが最適解ではないだろうか。
そういった中で、スズキは抱える最大のマーケットであるインドに注目し、インドらしい発想で課題に取り組んでいる。個性爆発ともいえるこのアプローチこそが、モビリティを持続的なものにしていく核なのではないか、そう感じた次第である。
もうひとつが、マツダ話題の1台「アイコニックSP」の横にひっそりと展示されていた大量の牡蠣の殻。
なんとも広島に拠点を構えるマツダらしい展示だなと思ったが、説明を読んでみると、これがアイコニックSPのインテリア素材の一部に使われているとのこと。
なんでも全国で収穫される約15万トンの牡蠣のうち6割が広島産で、養殖過程で出た殻は産業廃棄物として処理されるのが通常だそう。
そこで牡蠣の殻をインテリア素材として再利用することで、牡蠣ならではの色味を活かしアクセントになるうえ、サステナブルでもあるというWin-Winな結果をもたらしてくれる。
工業製品を生み出し、地球環境への影響もゼロとはいえない自動車メーカーが、地元と共生するためのちょっと面白い取り組みだった。
環境規制が日々厳しくなる中で、メーカーの自力では限界があり、地域の自治体や住民への協力のお願いが、今まで以上に必要になってくるのは確実だろう。
このような状況下において、モビリティを持続させていくためにも、地元が抱える課題に率先して取り組み、付加価値をもって提供していく「究極」のサステナブルがもたらすスケールメリットは、想像以上に大きいように感じる。
マツダ繋がりで「これは良い取り組みだ!!」と感じたのが、「2/3スケールロードスター」だった。小学生以下を対象に、クルマの楽しさを知ってもらうことを目的とした、いわば「アトラクション」なのだが……。じっくり見てみるとかなり精巧な造り込みで、子供相手だからといっていっさいの妥協がない。
取材日とは別に、一般公開日初の週末となった28日(土曜日)に見に行ったところ、子供たちが列をなして、とっても楽しそうに体験している姿が微笑ましかった。
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