ポルシェというクルマを語る時、クルマ好きはその存在を特別なまなざしで見る。
なかでも「911」の存在は別格だ。そのいっぽうで、「911」もまた時代の潮流に乗り、排気量の縮小とターボ化が進む。登場からまもなく1年、あらためて「911」の懐の深さを紹介しよう。
文:中谷明彦/写真:藤井元輔
BestCar PLUS 2016年5月18日号
新型911は“難しい”ポルシェではない
ポルシェといえば誰もが一番にイメージするのはスポーツカーとしての「911」だろう。リアエンジン・リア駆動であるRRレイアウトによる独特なパッケージングはデビュー当初から引き継がれ、50年以上変わることがない。
ポルシェというブランド力は世界中のメーカーが羨むほどに強力で魅力的だが、その土台を築いたのが911というモデルであることは疑いの余地がない。
それを理解しているからこそ、ポルシェは911の個性的なパッケージングを変えることなく、進化させることに傾注してきたといえる。
いっぽうで911の個性やパフォーマンスは一般的なドライバーにとって敬遠されがちな側面も持ち合わせている。それはRRレイアウトゆえ運転が難しく、扱いづらいと思われていることだ。
確かに1998年まで生産されていた空冷エンジンを搭載する911の時代までは一般ドライバーにとって911を乗りこなすことは難しかった。逆にRRの911を乗りこなすことができれば、「911マイスター」として憧れられる存在となり得た。
最新の911はしかし、そうした時代の個性を上手く残しつつもビギナーや女性ドライバーでも扱いやすい特性に仕立て上げられていることをご存じだろうか。
最新の911型911カレラには、ついにターボチャージャーが標準装着された。これまで911カレラと911ターボは完全に分離したカテゴライズがなされ独立したポジショニングを確立していた。
今回911にターボが標準化されたことでキャラクターの変化があったのだろうか。
結論から言ってしまえば答えは「NO」だ。ターボが装着された最新型911カレラをポルシェは「911ターボ」とは呼んでいない。
3Lにダウンサイジングされた水平対向6気筒エンジンは、両バンクに小型のターボチャージャーを装着し、ツインターボ化された。最高出力は3700ps/6500rpmだが、最大トルクは45.9kgmを1700~5000rpmという広いレンジで発揮する。
そのスペックからも実にレスポンスが良く扱いやすいエンジンであると察しがつくだろう。スーパーパフォーマンスである911ターボとは異なった実用的な出力特性とすることで、911カレラに相応しいエンジンに仕上げたのだ。
試しに従来モデルのNAエンジンを搭載する911カレラと都内を走り比べた。両モデルともマニュアルトランスミッションの3ペダル仕様だ。おそらく常用速度で市街地を走ればターボの有無を言い当てることは難しいだろう。
それほど新型911カレラは扱いやすくアクセルワークに忠実なエンジン特性となっている。911ターボを彷彿とさせる凶暴性は皆無で、常にシャシーがエンジン出力を懐深く受け入れている印象だ。
4シーターレイアウトの後席は子どもには十分なスペースとなるし荷物を積み込めば相当な量の積載も可能。フロントトランクスペースと合わせると長期旅行も可能だ。
マニュアルミッション仕様ゆえヒール&トゥのようなドライビングテクニックを基本から学ぶためのトレーニングマシンとして、また日常的に使えるスポーツカーとしても新型911カレラは「難しくないポルシェ」に仕立て上げられているといっていい。
ただ「911」を名乗る以上、決してヤワなクルマではないことは明記しておきたい。
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