驚異的な性能と同居する”賢さ”
このタイプRにもっとも感謝すべき場面といえばサーキット以外はない。片田舎の直線道路で実力を発揮しようものならあっという間に警察のお世話になる。
今回の試乗でそんな厄介ごとを起こさずに済んだのは、ホンダがDTMも開催される「ユーロスピードウェイ・ラウジッツ」というどいつのサーキットを試乗コースとして用意してくれたから。
1周3.2kmもあるオーバルコースでこのホンダスポーツを全開で走らせた。日本人のエンジニアが自信ありげに語る。
「ドライバーが安心感、そして自信を持って走れるクルマにしました」と。
たしかにそれは真実のようだ。トルクベクタリングの制御が非常に緻密で、FFで320psというひと昔前からしたら考えられない暴力的なスペックから想像できない安心感がある。
ホンダでは「アジャイルハンドリングアシスト」と呼ぶが、コーナリング中や立ち上がりの加速をするときに、コーナー内側の前輪にほんの少しのブレーキをかけ、コーナー進入や立ち上がり加速を補助するシステムがある。
電子制御のみの変更ではこうも唸るハンドリングにはならないはず。ハードウェアでも進化がみられる。
10.5cm伸びたホイールベース、そしてリアのマルチリンクがそれだ。これらすべてが合わさることで、このシビックに驚異的なハンドリングをもたらしている。
さらに素早いシフトができるギアボックスは「ヒール&トー」を補助する機能を持つのも特筆した。ドライバーはブレーキにさえ専念していれば、アクセルをかかとで煽る必要はなく、クルマが勝手にブリッピングをしてくれる。
プロドライバーには不要な装備と思われがちだが、ニュルブルクリンクでコースレコードを更新した際には、この機能が記録更新に繋がっているとのことだった。
ひとつ間違えば大事故が起こるノルドシュライフでは、この機能は非常に役立つことは想像に易い。
まるでドライバーというよりはハイテク装備に囲まれた「パイロット」のような気分になるタイプRだが、個人的な意見としてはクルマが完成されすぎていると感じる。
たしかにバランスもよく、エンジンも、そして驚異的なハンドリングも、今日のFFスポーツカーでトップクラスなのは間違いない。
しかし一般道ではプジョー308GTiの270psのほうが「操っている感」があって楽しいし、フォードフォーカスRSはタイプRを追いかけ回すことは難しいけれど4WDの「ドリフトモード」はとっても楽しい。
楽しむという解釈がどのようにされるかは個人差があるだろうが、とにかくこのシビックタイプRは優秀のひと言につきる。
性能はすばらしいが、すばらしすぎて遊ぶ隙がない。それがいいことか悪いことかは、実際にステアリングを握って判断してほしい。
しかしこのシビックが優秀といえるのはそのプライスにある。日本ではシビックのイメージが”市民車”なのは承知しているが、ヨーロッパでこのタイプRを高いという人はあまりいないはずだ。
アダプティブクルーズコントロール、自動ブレーキなどがすべて標準装備で3万8910ユーロ(約500万円)のタイプR。
フォードフォーカスRSの4万5510ユーロ(約582万円)よりも安く、プジョー308GTiの3万7700ユーロ(482万円)より高い。
この圧倒的な性能を踏まえれば、価格的には充分な競争力があるのは間違いない。あとは完璧すぎる調和を楽しめるかどうか、である。
※文章内の価格、装備、スペックなどはフランス仕様のものです。
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