いざ、さらばS660!! 「エスロク」が生まれた奇跡と生き続けた本田宗一郎の魂

■エンジニアのこだわりと執念が生んだ1台

開発当時に公開された雪上テストの風景。ミドシップらしく曲がることに主眼を置いた設計はS660の真髄だった
開発当時に公開された雪上テストの風景。ミドシップらしく曲がることに主眼を置いた設計はS660の真髄だった

 S660の軽スポーツカーとしての素性は実に素晴らしい。スポーツカーの醍醐味「曲がる楽しさ」を最大限に体感できるよう、高い旋回性能にこだわり、ミッドシップエンジンリアドライブ(MR)レイアウトを採用。

 エンジンが車両後方に配置されたことで、フロントの軽量化とボンネット高を低くでき、スポーツカーらしいノーズの低いプロポーションを得た。

 車両重量は830kg(CVTは850kg)、前軸荷重配分は45%、フロント軸重約373kgというありえないほどの超軽量なフロントセクションだ。ドライバー席も、後輪タイヤのすぐ手前に来るほど後ろ寄りで、後輪荷重の増加に寄与している。

 この驚異のパッケージングは、レイアウト設計の相当な苦労と執念の賜物であろう。そのおかげもあり、ハンドル操作に対するフロントノーズの応答性は、軽の領域はおろか、スポーツカーも真っ青なレベルで俊敏かつ遅れが一切ない。

2020年1月にマイナーチェンジを実施。ボディカラー追加やホイールデザインの変更などがトピック
2020年1月にマイナーチェンジを実施。ボディカラー追加やホイールデザインの変更などがトピック

 ボディサイズは、3395×1475×1180(全長×全幅×全高mm)、ホイールベース2285mm。全高とドライバー着座高が低く、クルマの低重心化を実現している。

 風や空を感じられるよう、非日常的を味わえるオープンカータイプとし、コンパクトで包まれ感のあるコクピットにつくり上げた。オープン・ボディ・タイプは、車体剛性を上げるために、フロア剛性を強力に高める必要がある。

 高剛性と軽量化の両立は至難の業。S660の車体設計の担当者はこれをどうやって実現させるか、相当頭を悩ませたに違いない。

 エンジンは、低回転域の強いトルクと高いアクセルレスポンスを狙った直列3気筒ターボエンジン(64ps/104Nm)を採用。速すぎることも遅すぎることもなく、自分の力量の内でコントロールできる、ちょうどよい塩梅だ。

 トランスミッションは、6速マニュアルトランスミッション(2015年当時は軽自動車初だった)のほか、「走る楽しさを、誰でも気軽に味わえるようにしたい」という想いから、スポーツモードを備えた7速パドルシフト付CVTも設定。

 MT好きのクルマに慣れ親しんだベテランドライバーが思いっきり楽しめることはもちろん、ビギナーでもクルマの楽しさを味わえるスポーツカーを目指した。このあたりにも、若い開発主査だからこその着眼があったかもしれない。

軽自動車としてはかなり異質な前後異径タイヤ。幅のみならずインチまで違う。しかもサーキットも視野に入れたADVANネオバの採用は衝撃だった
軽自動車としてはかなり異質な前後異径タイヤ。幅のみならずインチまで違う。しかもサーキットも視野に入れたADVANネオバの採用は衝撃だった

 足回りは、ADVAN最強のストリート用タイヤ、「ADVANネオバAD08R」を前後輪に装着。リアグリップ命のミッドシップ車らしく、リアには幅広タイヤを採用する、という抜かりのなさ(ちなみに前輪165/55R15、後輪195/45R16という、前後異幅かつ異サイズのタイヤだ)。

 走りの気持ちよさを優先し、タイヤローテーションのことなんて後回し、という割り切った姿勢は、嫌いではない(むしろすき)。

 車速が約70km/hになると自動で上がり、車速約35km/hで自動格納されるアクティブスポイラー 運転席側のスイッチでも操作が可能 超高級スポーツカーでしかないような装備がオプション設定されている

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