打倒ノア&ヴォクシーなるか? 新型ステップワゴンの期待と王座奪回への注文

■ターゲットは「29%の価値観」

 フロントマスクのデザインも、スパーダについては、以前よりも表情が穏やかになった。コンセプトからデザインまで、車両全体の整合性が取れている。デザイナーは「ホンダの通常のデザインは、車両のコンセプトとは別々に進められるが、今回は連携を取りながら作業した」という。

 またホンダは、ミニバンの外観に対するユーザーの見方として、興味深いデータを示した。ミニバンを買う人達の理想のデザイン世界観として、存在感の強いオラオラ系が30%、VIP感覚は12%、スタイリッシュも29%とされ、71%が注目を集める外観を好むとしている。

 この傾向を踏まえたうえで、新型ステップワゴンは、クリーン、暖かさ、シンプルといった新しいナチュラルな価値観を目指している。71%を差し引いた「29%価値観」だ。初代と2代目に対するオマージュも含め、同乗者に優しいクルマ酔いを生じにくいデザイン、オラオラ系とは違う自然なデザインなどが、ほかのミニバンとは違う新型ステップワゴンのセールスポイントになる。

 ただし同様のことは、今までのステップワゴンにも見られた。2015年に発売された従来型も「もっとラクに、もっと優しく」「誰もがゆったりとくつろげるビッグキャビン」という特徴を掲げていた。

新型ステップワゴンは、クリーン、暖かさ、シンプルといった新しいナチュラルな価値観を目指している
新型ステップワゴンは、クリーン、暖かさ、シンプルといった新しいナチュラルな価値観を目指している

 そして、従来型の発売時点のフロントマスクは、スパーダも控え目だった。開発者に理由を尋ねると「目立つ外観はほかのミニバンも採用しており、ステップワゴンは個性を重視した」と返答された。

 それなのに2017年のマイナーチェンジでは、スパーダにハイブリッドを設定して、外観も目立つ精悍なデザインに改めた。開発者にデザインを変えた理由を尋ねると「売れ行きが伸び悩んだから変更した」と返答された。ステップワゴンの場合、過去を振り返ると、控え目な顔立ちで発売されて、マイナーチェンジで派手に変更するパターンが多い。

 優しさが感じられる新型ステップワゴンの世界観は、ミニバンというよりも、ファミリーカーの本質を突いている。昨今の時代背景を考えても、リラックスできて街中が明るい雰囲気になるようなクルマ造りは大切だ。

 高い着座位置から周囲を見降ろして、蹴散らして走るような価値観は、今は相容れない。2008年に発売された初代ヴェルファイアのCMコピー、「その高級車は、強い。」といった価値観は、もはや時代遅れだ。

優しさが感じられる新型ステップワゴンの世界観は、ファミリーカーの本質を突いている
優しさが感じられる新型ステップワゴンの世界観は、ファミリーカーの本質を突いている

 その意味で新型ステップワゴンには賛同できるが、世界観とデザインが控え目だから、インパクトも明らかに弱い。前述の通りメカニズムや装備でも目を引く特徴が乏しいから、今までと同じ売り方では、従来型と同様に販売の低迷を招く可能性が高い。

 特に2022年には、前述の通りライバル車のヴォクシー&ノアに加えてセレナもフルモデルチェンジされ、ステップワゴンの競争関係は一層厳しくなる。本来ならステップワゴンのフルモデルチェンジは、ライバル車とは時期を変えるべきだった。ここにも今のホンダの国内市場に対する甘さが現われている。

■ヴォクシー・ノアとの比較 未発表の価格はどうあるべき?

 この点も踏まえて新型ステップワゴンに求められるのは、ユーザーから共感を得られる売り方だ。新型ステップワゴンの時代に合わせた少し線の細い世界観を、効果的に訴求せねばならない。

 ドライバーから2/3列目まで、すべての乗員に与えた優れた視界も、購入しないと分かりにくい。やり方を間違えると「何だか地味なクルマだね」で見過ごされる。敢えて自ら「注目を集める71%ではなく、29%のデザイン」を選んだのだから、苦労を乗り越える必要も生じる。

 価格も大切だ。トヨタの販売店では、既にヴォクシー&ノアの価格を明らかにしており、ノア(2WD)の場合、ノーマルエンジンは267万~332万円、ハイブリッドは305万~367万円になる。

 この価格帯を考えると、ステップワゴンは機能を充実させても値上げはできない。新型ステップワゴンのエアは、ホンダセンシングに加えて、後方誤発進抑制機能、低速時に運転を支援するトラフィックジャムアシスト、フルLEDヘッドランプ、両側スライドの電動機能などを標準装着する。

ステップワゴンはドライバーから2/3列目まで、すべての乗員に与えた優れた視界を持っている
ステップワゴンはドライバーから2/3列目まで、すべての乗員に与えた優れた視界を持っている

 それでも価格は280万円台(290万円未満)に抑えたい。ノアの標準ボディにノーマルエンジンを組み合わせた中級のGが297万円とされ、エアはこのグレードよりも割安に見せる必要があるからだ。

 スパーダはブラインドスポットインフォメーション、パワーテールゲート、2列目キャプテンシートなどを標準装着する。これもノアにエアロパーツを装着したS-Zが332万円になることを考慮すると、320万円程度に抑えたい。

 そして、新型ヴォクシー&ノアは、ノーマルエンジンとハイブリッドの価格差をカローラクロスと同じ35万円に抑える。この金額はフィットのノーマルエンジンとe:HEVとの価格差にほぼ等しい。そうなるとステップワゴンも、ノーマルエンジンと比べた時のe:HEVの価格アップを35万円以下に抑える必要が生じる。

 ミニバンは出費にシビアなファミリーユーザーが中心だから、価格競争も激しい。ヴォクシー&ノアを徹底的にマークして戦略を立てるべきだ。競争相手が明確なので、都合の良いことも多いだろう。

ミニバンは価格競争も激しいだけに、ステップワゴンの価格が気になるところだ
ミニバンは価格競争も激しいだけに、ステップワゴンの価格が気になるところだ

 そして今は国内で販売されるホンダ車の30%以上がN-BOXで占められ、軽自動車は50%以上に達する。そこにフィット、フリード、ヴェゼルを加えると80%を超える。ホンダのブランドイメージが小型化しており、ステップワゴンも売りにくくなっている。

 この状態が続くと、ホンダはスズキやダイハツのような「小さなクルマのメーカー」になる。それはユーザーにとっても、ホンダにとっても、幸せな未来ではないだろう。

 この状況を変えられるのも、ミドルサイズ以上で最も多く販売される新型ステップワゴンだ。成功を祈る!

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